野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)
 元日(がんじつ)儀式(ぎしき)が終わると、源氏(げんじ)(きみ)はそのまま左大臣(さだいじん)(てい)へ行かれた。奥様に新年のご挨拶(あいさつ)をなさる。あいかわらずとり澄ましていらっしゃるだけで、優しいご様子はない。
「今年からは妻らしく打ちとけようと思ってくださったら、どんなにうれしいでしょう」
 息苦しさに()えながらおっしゃる。奥様は、二条の院に女性を迎えたという(うわさ)自尊(じそん)(しん)が傷ついていた。
<その女性を正妻(せいさい)として扱いたいとお思いなのだろう>
 分かりやすく(うら)んだりすがったりはせず、静かに源氏の君を拒絶(きょぜつ)なさる。しかし、それに気づかないふりで源氏の君が冗談(じょうだん)をおっしゃると、意地を張りきれずについお返事してしまわれる。やはり他の女性とは違う魅力(みりょく)もお持ちだった。
 元日の今日、源氏の君は十九歳、奥様は二十三歳におなりになった。女(ざか)りの奥様を見て、
<いったいこの人の何が不満だと言うのだろう。私の浮気心のせいで、こうして恨まれてしまうのだ>
 と少しは反省なさる。
 左大臣家の一人娘として大切に育てられた奥様は、恐ろしいほど自尊心が高かった。ご自分が軽んじられることなど絶対にお許しになれない。肩の力を抜いていただこうと源氏の君は努力なさったけれど、それがかえって(あだ)になったのでしょうね。

 左大臣は婿君(むこぎみ)のご愛情の(うす)さを悲しみながらも、たまにお越しになったときには恨みも忘れてお世話をなさる。今朝も源氏の君が早くから着替えていらっしゃるところにお顔を出された。着物の後ろを整えておあげになって、(くつ)まで()かせんばかりなのは、もうお気の毒なほど。
 宝石のついたすばらしい帯を差し出して、今つけるようにお(すす)めになる。
「これはあまりにすばらしいお品ですから、内裏(だいり)(うたげ)があるときに使わせていただきましょう」
 源氏の君がさりげなく遠慮(えんりょ)なさると、
「いえいえ、そのときにはもっとよいものを差し上げます。これはただ目新しい細工がしてあるだけでございますよ」
 と言って、無理やりつけさせてしまわれる。
 こうして美しく(かざ)りたてた源氏の君を見て、左大臣は満足そうににこにこなさる。
<たまにであっても、こんなに立派な婿君が屋敷に出入りしてくださること以上の幸せがあるだろうか>
 源氏の君のお世話をなさることは左大臣の生きがいになっていた。
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