男装令嬢は双子の兄のために縁談を蹴りに行きます
「……え?」
思わず聞き返すと、慌てたように少し身を乗り出して、否定の言葉が続く。
「断じて違います。私はミーア嬢を女性として見ています。いくら男装していたからといっても、あなたは女性でしょう。そして、男装は趣味ではなく、兄の窮地を救うために致し方なくしたことであると」
「……そうです」
王女の目は欺けたが、好き好んで男装していたわけじゃない。
それを肯定すると、アルヴィは満足したように一度頷く。そして、まだ口をつけていないコーヒーカップを一瞥し、次にミーアに視線を合わす。
「あれから、俺はあなたのことが気になって仕方がないんです。しかし、俺たちに接点はありません。ですから、会う機会がないなら作るまでだと考えました」
「……それで、婚約を……?」
「そのとおりです」
当然だとばかりに頷かれたが、問題はまだ片付いていない。というより、ここからが本題だ。ミーアはテーブルの下でぎゅっと拳を握った。
「で、ですけど……私、髪をばっさり切ってしまって。性格も男勝りだと言われてきて、誰も娶りたいなんて思わないような女ですよ……?」
今日は外出用のかつらを被っているが、地毛は男のように短いままだ。
ミーアといえば、地元では悪戯をする男の子たちを締め上げ、その名を轟かせていたほどだ。家族で一人だけ血の気が多いミーアは浮いていた。
だが、アルヴィは恐れおののくかと思いきや、静かに微笑んで見せる。
「そうですか。それは好都合です」
「だ、だから行き遅れは確定しているようなもので……」
「行き遅れにはさせません。俺が面倒を見ます。どうぞご安心を」
「いや、あの。だから、考え直されたほうがよろしい……かと」
ミーアの必死の訴えに、アルヴィはゆるく首を振った。
「髪はいずれ伸びますし、人前では今のように取り繕っていれば問題ないと考えます。それに、強気な女性はむしろ好感が持てます。俺は自分の直感を信じます。運命の恋をするなら、あなたがいい」
「…………」
「俺ではだめですか?」
なぜだろう。今、自分がとても悪いことをしている気分になってくる。
声が干上がって出てこない。だけど、アルヴィは返事を待っている。覚悟を決め、カラカラになった喉から声を絞り出そうと口を開く。
「……だ……っ……」
「だ?」
「……だめとかじゃないです。……でも、後悔しても知りませんよ?」
「後悔させないよう、全力を尽くします」
敗北だ。自分はこの先も、この男には勝てない気がする。
さっきから鼓動が激しいのはこの際、認めよう。ミーアは降参とばかりに、左手をそっと持ち上げた。
意図はすぐに伝わったようで、アルヴィは椅子から立ち上がり、ミーアの横に跪く。視線が交わると、暁の瞳が嬉しそうに細められる。途端、心臓が跳ねた。
アルヴィは固まって動けなくなったミーアの左手を優しくつかみ、そっと手の甲に唇を近づけた。
思わず聞き返すと、慌てたように少し身を乗り出して、否定の言葉が続く。
「断じて違います。私はミーア嬢を女性として見ています。いくら男装していたからといっても、あなたは女性でしょう。そして、男装は趣味ではなく、兄の窮地を救うために致し方なくしたことであると」
「……そうです」
王女の目は欺けたが、好き好んで男装していたわけじゃない。
それを肯定すると、アルヴィは満足したように一度頷く。そして、まだ口をつけていないコーヒーカップを一瞥し、次にミーアに視線を合わす。
「あれから、俺はあなたのことが気になって仕方がないんです。しかし、俺たちに接点はありません。ですから、会う機会がないなら作るまでだと考えました」
「……それで、婚約を……?」
「そのとおりです」
当然だとばかりに頷かれたが、問題はまだ片付いていない。というより、ここからが本題だ。ミーアはテーブルの下でぎゅっと拳を握った。
「で、ですけど……私、髪をばっさり切ってしまって。性格も男勝りだと言われてきて、誰も娶りたいなんて思わないような女ですよ……?」
今日は外出用のかつらを被っているが、地毛は男のように短いままだ。
ミーアといえば、地元では悪戯をする男の子たちを締め上げ、その名を轟かせていたほどだ。家族で一人だけ血の気が多いミーアは浮いていた。
だが、アルヴィは恐れおののくかと思いきや、静かに微笑んで見せる。
「そうですか。それは好都合です」
「だ、だから行き遅れは確定しているようなもので……」
「行き遅れにはさせません。俺が面倒を見ます。どうぞご安心を」
「いや、あの。だから、考え直されたほうがよろしい……かと」
ミーアの必死の訴えに、アルヴィはゆるく首を振った。
「髪はいずれ伸びますし、人前では今のように取り繕っていれば問題ないと考えます。それに、強気な女性はむしろ好感が持てます。俺は自分の直感を信じます。運命の恋をするなら、あなたがいい」
「…………」
「俺ではだめですか?」
なぜだろう。今、自分がとても悪いことをしている気分になってくる。
声が干上がって出てこない。だけど、アルヴィは返事を待っている。覚悟を決め、カラカラになった喉から声を絞り出そうと口を開く。
「……だ……っ……」
「だ?」
「……だめとかじゃないです。……でも、後悔しても知りませんよ?」
「後悔させないよう、全力を尽くします」
敗北だ。自分はこの先も、この男には勝てない気がする。
さっきから鼓動が激しいのはこの際、認めよう。ミーアは降参とばかりに、左手をそっと持ち上げた。
意図はすぐに伝わったようで、アルヴィは椅子から立ち上がり、ミーアの横に跪く。視線が交わると、暁の瞳が嬉しそうに細められる。途端、心臓が跳ねた。
アルヴィは固まって動けなくなったミーアの左手を優しくつかみ、そっと手の甲に唇を近づけた。


