Simple-Lover
Lovely Kiss
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“元々お前は俺のでしょ?”
ずっと、ずーっと大好きだった幼馴染みのヒロにぃと晴れて恋人になった夏休み。
“ヒナ…好き”
耳元で優しく囁かれたあの時、本当に、本当に幸せだった。
恋人になってからも、相変わらずお休みの日にはおうちに遊びに来てくれるヒロにぃに、お父さんもお母さんもニコニコで。
『春休み、一泊二日位なら』って、二人で旅行に行くことも許してくれて順風満帆…だったはずなんだけど。
去年の12月位からヒロにぃは何かって言うと『バイト』って言い出して、おうちに遊びに来る回数も減った。
だから、バレンタインはちゃんと当日にチョコを渡して一緒に過ごしたいなあって思って、『2月14日はお休み取ってね!』って言っておいたのに。
「14日?俺、バイトだわ。」
「?!」
11日の祝日、両親がお互い出かけてる最中、いつも通り私の家に遊びに来て、ソファでくつろぎスマホゲームをしているヒロにぃの側に立ち、口を尖らせる。
「バレンタインなのに…」
「“バレンタインだから”だよ。バイト代、跳ね上がるんだよ。」
「ちょ、チョコ渡したいのに。」
「仕事なんだから仕方ないでしょ?
日付跨ぐまで働いているワケじゃ無いし。終わったら連絡すっから。そしたら当日貰えるでしょ?」
そんな、バレンタインはチョコを渡して、ハイ終わりみたいな言い方…
大学生のヒロにぃは、高校生の私と比べればだいぶオトナで。
私も、ヒロにぃに並んでも恥ずかしくないオトナな女になりたい。
なんて思いながら、今年のバレンタインは、トリュフを手作りすることにしたのに…
ヒロにぃのバカ!嫌い!
ヒロにぃにチョコなんてあげないもん!
喉元から出かけた捨て台詞をグッと堪えた。
…そうだよ。
オトナの女になりたいんだから。
「…し、仕方ない、よね。ば、バイトなら…うん。」
チンっ
キッチンでオーブンが短い音を立てた。
あ…焼いていた紅茶のチョコケーキが焼けたかな。
オーブンを開けると、アールグレーの香りがフワリと一気に広がる。
…よし、これを一日かけてゆっくり冷やしたらラッピングだな。
出来映えの良さに、頬が緩む。
その途端、ギュウッと背中から包まれた。
「…美味そう。」
「こ、これはダメだよ。学校の友達に配るんだもん。」
「へー…学校の友達ねえ…」
肩に乗る顎の感触と頬にかかるふわふわの髪先が、どことなくくすぐったい。
「インスタにアップするし…可愛いくて凝ってる方がいいじゃん。これなら日持ちするから今日作っておけるし。」
「今どきの女子コーセーは色々気を遣わなきゃいけなくて大変だね。」
「そうだよ~。早川なんて、“お前の不器用さからして期待出来ねえ”とか言ってて。絶対見返してやるんだから。」
「……“ハヤカワ”。」
「あれ?前に話さなかったっけ。早川涼也。
夏休みにクラスの友達と遊びに出かけた時に違うクラスだけど来てて…
そこから結構話するようになったんだけど。会えば人のこと、からかってさ…」
「……。」
「この前なんてね?…っ!」
突然、首筋にヒロにぃの唇が強くくっついて、手がもぞもぞと動き出す。
「…オトモダチの話はもういい。」
「やっ…」
うなじへと這っていく唇の感触に思わずのけぞった。
けれど、前へと離れた腰は簡単にヒロにぃの腕に捕らえられて引き戻される。その手が、ショートパンツの上を滑り降り、内股を撫でた。
「ひ、ヒロにぃ…ま、待って…」
「待たない。」
クルンと向きを変えられて、後頭部と腰に手を当て抱き寄せられる。
「んん……っ」
そのまま唇が塞がれた。
柔らかいヒロにぃの唇。
それが何度も、私のを包み込み、吐息を吐く事すらままならない。
思わずギュッとヒロにいのセーターを握った。
「…ヒナは14日、俺がバイト行っても全然へーきなんだ。」
暫くして漸く開放された唇の端を、ヒロにぃの丸い親指の先がそっと辿った。
そのまま片頬をフワリとつつまれ、耳に指先が触れる。
「ひ、ヒロにぃが言ったんじゃん…働いてるんだから仕方ないって…」
「俺は働いてる張本人ですから。それでいーんだよ。でもお前が聞き分け良いと、何か気持ち悪い。」
「なっ!何それ!」
人が折角頑張ってオトナになろうとしてるのに!
「ヒロにぃのバカ!嫌い!」
胸元を片方の手で押して、もう片方でペシンと叩く。
それにハハッと笑ったヒロにぃは、もう一度私を抱き寄せた。
「…まあ、なるべく早く帰ってくるからさ。」
「う…ん…」
「じゃあ…続き?」
「お、お母さん達そろそろ帰るかもしれないから…」
「平気でしょ。」
「で、でも…」
「俺が平気つったらへーきなんだよ。」
私を抱き寄せる腕の先のヒロにぃの手が背中から、服の中へと滑り、素肌を辿る。
その感触にビクンと身体が揺れ、のけぞると、鎖骨にヒロにぃの唇が触れた。
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