心の声を聞きたい王子様に応える私は変態ですか?
「あれが王子の想い人ぉ?」

 夢魔が心の中だけで話しかけてきました。青白い顔をした露出度の高いお姉さんですね。髪も瞳も爪すら青い。

「ええ、可愛らしいでしょう」

 私も心の声で返します。夢魔の姿は私以外の誰にも見せていないようですね。

「あんな狂った王子の毒牙にかかるなんて、可哀想ねぇ」
「狂っていると気づかれなければいいんですよ」
「死ぬまでぇ?」
「ええ、死ぬまで」

 くくっと笑いながら、あの二人を見る夢魔は何を考えているのか。セルバンティス様とユリア様は、それはそれは可愛らしい会話をしています。

「わ、私、セルバンティス様が好きなんです。私なんかがって思うんですけど、でも他の方とご結婚されるのを見るのは辛いだろうなと想像できますし。もし私にも機会があるのなら、頑張ろうと……っ」

 心を読まれているという緊張感でしどろもどろになっていますね。

「そうか、すごく嬉しい。ずっと周囲の顔色ばかりうかがってきたんだ。それを悟られないように虚勢ばかり張っていた。どうしても本当に好かれているのか、たった一度きりでいいから試したいと思ってしまった。私は弱い人間なんだ。それでも――好きだと思ってもらえるだろうか」

 嘘ばかりですね。そんな弱々しい人ではないでしょう。

 人間の汚い部分も好み、どうにかして彼女のそれを見たがっている。当然、ご自身の汚さも自覚している。何を見ても愛せるさと笑っていた。

 つくったような表向きの綺麗な会話が一段落したところで、用意していた一つ目の質問をする。

「私からよろしいでしょうか、ユリア様」
「は、はい!」
「あなたに嫌いな方はいますか」
「き……嫌いな人……。あ、前に街で絡んできた男性の方たちは怖いなと思いました。嫌い……なタイプだと思います。そんな行為をしてしまう何かは彼らにもあるとは思いますが、苦手です。あの、あの時はありがとうございました!」
「いや、君にも信頼できる者が側にいただろうに、出しゃばってしまってすまなかった」

 自分が計画されたくせによく言いますね。さすがは私のご主人様です。

「ユリア様、あなたはセルバンティス様に助けられた時、どうお感じになられましたか」
「え、えっと……」

 綺麗な言葉を話すか本音を話すか迷われていますね。きっと色んな言葉が頭を飛び交っているのでしょう。

「正直なところ、運命の相手かなって思っちゃいました。変装されていたのでセルバンティス様だとは分からなかったんですが、えっと……その、立ち振舞いが高貴な方のようだったので、えっと、両親も納得してくれる身分の方でこのまま愛が深まってゴールインできたらなんて考えてしまっていました。す、すみません……!」

 心の中ではどうなんでしょうね。素直な言葉に聞こえてはいますが。

「いや、嬉しいよ。周囲の者に認めてもらうのは重要だ。君の考え方、すごく好きだよ」

 セルバンティス様がこちらをチラリと見ましたね。不満そうです。彼女の汚さが見えないのでしょう。

 では、奥の手を使いましょうか。 
 
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