俺の彼女は高校教師
 結局俺たちは駅まで全力疾走した。 「はーーーーーー、疲れた。」
「お前が怒らせるからだろう?」 「何よ? 弘明君こそ浮気しといて。」
「結婚してないんだから浮気もくそもねえよ。」 「そうですねえそうですねえ。 あたしが悪うございましたわ。」
「まったく、、、。」 「だいたいねえ、高橋先生に手を出す弘明君が悪いのよ。」
「まだ出してないけど。」 「まだってことはいつか出すつもりなのねえ?」
「知らねえよ。 そんなこと。」 「うわ、彼女を置いて逃げるなんて卑怯者!」
「勝手にやってろ。 馬鹿。」 「うわ、言い返せないから馬鹿だって。 ひどーーーーーーーい。」
 電車が来るまで香澄が騒ぎ続けるもんだから自販機でレモンジュースを買ってきた。 「あ、ありがとう。」
「調子いいんだからなあ。」 「彼女ですから。」
「今年一年の辛抱だな。」 「何ですって?」
小声で言ったはずなのに香澄が問い詰めてくる。 「何でもねえよ。」
「今年一年の辛抱だって言った輪よね? どういうこと?」 「だから言ってねえってば。」
「言った輪よね? 聞こえちゃったんだけど。」 「地獄耳だなあ。」
「そうよ。 私の耳は、、、。」 「ロバの耳!」
反対側に居た律子が大声で叫んだ。 「やられたな。」
「もう、、、。 りっちゃん邪魔しないでよ!」 「ごめんねえ。 じゃあ明日ねえ。」
 律子は笑いながら手を振っている。 何も言えなくなった香澄は甘える柴犬みたいな顔になった。
そんな香澄の肩をポンポンと叩いてみる。 「思わせぶりねえ。 弘明君。」
「お前だって、、、。」 そうだよなあ、これまで親友以上に仲が良かったんだもんなあ。
 互いに家に呼んだことも有るんだし、交換日記もやってたんだし。 夏休みはいつも一緒に遊んでた。
もちろん香澄が俺のことを好きだってのも前から知ってるよ。 でもさ仲が良過ぎて、、、。
 「何 ボーっとしてるの? 行っちゃうよ!」 「やんべえ! 待て待て!」
いつの間にか電車が来てて乗り込んだ香澄が騒いでる。 乗った瞬間にドアが閉まって制服が挟まっちまった。
「いいざまねえ。 そのままで立ってなさい。」 (こんちきしょう!)
上着を挟まれた俺は羽を掴まれたチョウチョみたいにしょんぼりしている。 香澄はそんな俺に見えるように目の前でスマホを弄っている。
 次の駅で開くのは反対側のドアだ。 しばらくこのまんまか。
バッグを下ろそうにも下ろせない。 座りたくても座れない。
バタバタしていると車掌がやってきた。 「次の駅でも開けないからその次の駅まで我慢してて。」
ということは15分後の田端駅までこのままだってことだ。 処刑される犯人みたいだな。
いい加減に疲れてきた頃、やっと電車は田端駅に着いた。 「私の呪いよ。 分かったでしょう?」
「『リング』じゃねえんだからさあ、、、。」 「私は貞子よ。」
「その顔でか? どう見てものび太のママだけど。」 「失礼ねえ。 私は女の子です。」
「今だけね。」 「何だって?」
香澄が詰め寄ってきた。 「電車の中でそれはねえよ。 なあ、香澄ちゃん。」
「んもう、そう呼べばおとなしくなると思って、、、。」 そこに俺はバッグに入れておいたメロンパンを差し出した。
「あ、ありがとう。」 「食い物には素直なんだなあ。」
「お腹空いてたから。」 しょうがねえお嬢様だぜ。

 その頃、美和はというと、、、。 バレー部の顧問としてサーブの練習を見守っているところ。
エースの早苗は直角サーブが持ち味。 何たって真上から落ちてくるんだから相手も慌ててしまうらしい。
 体育の時間にクラス対抗でやったことが有るけどあいつのサーブは何処に飛んでくるか分からない。 いつだかは頭の上に落ちてきて失神しそうになったんだからな。
「今日も抜群ね。」 「まだまだですよ。 本調子ならもっと高く上がるんですから。」
「そうなの? 見てみたいなあ。」 「夏の試合までに完成させなきゃ、、、。」
早苗はまたボールを持った。
 俺はいつものように駅を出ると商店街を歩いて家へ向かう。 あの墓地の前を通ってな。
パンだ焼きも買ってきたし母ちゃんもそろそろ帰ってくるし今日は何も無さそうだなあ。 と思ったらスマホが、、、。

 『明日さあ遊びに来ない?』

 「やべえ。 美和からの招待状だ。」 驚いた拍子に電柱に激突してしまった。
「いてえなあ、、、こんちきしょう!」 文句を言いながらにやけた顔で玄関を入る。
「お帰りーーーー。 どうしたんだよ?」 「いや、何でもない。 はい、パンダ焼き。」
「おー、サンキュー。」 母ちゃんをやり過ごして二階へ上がる。

 『明日来いって言われても家すら知らないんだけど、、、。』

 『いいわよ。 駅前まで迎えに行ってあげるから。』

 美和とメールしていると父さんの声が聞こえた。 「まだまだパンダ焼き売ってたのか。」
「知らなかった?」 「商店街なんて滅多に行かないからさあ。」
「そうか。 あそこはまだまだやってるわよ。」 「おーい、飯だぞーーーーー。」
 スマホを閉じて部屋を出る。 姉ちゃんは旅行中。
(覚られないようにしないとな、、、。) 何とか平常を装って食堂へ、、、。
 「弘明も今年は3年なんだよな? 進路は決まったか?」 「まだだよ。」
「そうか。 でも夏までには決めといたほうがいいぞ。 真理子だって大変だったんだからな。」
食事をしながら進路の話が出てくる。 難しいんだよなあ。
 父さんは飲みながらテレビを見ている。 母ちゃんは洗い物をしているみたい。
俺は食事を済ませると二階へ上がった。 明日は土曜日だ。

 『うちに来たらお昼を御馳走するね。 何がいい?』

 「何がいい?って聞かれてもなあ、、、。」 戸惑いながらメールを打つ。

 『美和の手料理なら何でもいいよ。』

 『分かった。 嫌いな物って有るかな?』

 『美和だったりして。 冗談だよ。 そうだなあ、ブロッコリーとかセロリとか、、、。』

 『私と同じなんだね。 ブロッコリーとかセロリは私も嫌いなの。』

 初めて体験する教師とのメール、、、。 でもそれがまた教師とは思えないんだよな。
差出人を公表しなかったら香澄か誰かだと思うだろうなあ。 でもこれが美和だぜ。
 なんかさあ、特別な存在って感じ。 出会ってまだ2週間も経ってないのに。 変だよなあ。
だいたいね、うちに遊びに来た時点で変なんだよ。 まさかそれが数学の先生だったなんてなあ。
 「弘明ーーーー、お風呂だぞーーーー。」 「やべえ、また呼んでる。」
スマホを置いて一階へ。 父さんは母ちゃんと何か話しているらしい。
 体を洗いながら美和のことを考える。 何か知らないがこの頃はずっと美和のことばかり考えている。
今週は一週間、ずっと図書館掃除で一緒だったんだもんなあ。 来週からはしばらく会わないや。 なんか寂しいな。
でもまあ昼休みに行けばいいか。 職員室が嫌いだって言ってたからな。
 布団に潜り込んでも美和のことばかり考えている。 明日もまたフェアレディーに乗れるんだ。
これまで仲良くなった教師なんて居なかった。 というより友達になっちゃいけないもんだって思ってきた。
ところが美和は、、、。 母ちゃんたちが知ってたっていうのが大きいのかなあ?
 始業式の日、訪ねてきたから驚いたよ。 「まさか、、、」だった。
それが今じゃあメル友なんだもんなあ。 まあこれくらいは有りかもな。
でもこれこそ香澄たちには内緒にしとかないとやばいよなあ。 たぶん絶対やばいよな。
 そんなわけで今夜も徹夜しそうな勢いなんだ。 でも寝とかないとやばいな。

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