俺の彼女は高校教師
 「香澄ちゃん来てるのかーーーーーい?」 「はーーーい。」
母ちゃんの声にこたえるように香澄は一階へ下りて行った。 (やりやがったわ。)
後を追って俺も一階へ下りていく。 「ホットケーキ食べる?」
「食べたーーーーーい。」 「香澄ちゃんは素直でいいわねえ。 宏明と違って。」
「俺がどうかした?」 「おやおや、居たのかい。」
「居るわな。 出掛けてないんだから。」 「あっそう。 お前はホットケーキなんて食べないよね?」
「うん。 じゃなくて何か食わせてよ。 何も食ってないんだから。」 「そうかい? はいこれ。」
 母ちゃんが出してきたのは夕食の残りだった。 「へえ、香澄にはホットケーキで俺には夕食の残飯かい。」
「残飯なんかじゃないわよ。 ちゃんと、、、。」 母ちゃんは何か言っているけど俺は振り向かずに家を出て行った。 「弘明ーーーーーー‼」
 香澄にはホットケーキで俺には残飯か。 俺もいよいよ厄介者にされちまったみたいだな。
ブラブラとバス通りを歩いてみる。 何だか気持ちがいい。
頭をスッキリさせようと思って歩いていたら魚屋が見えてきた。 玄関も開いているらしい。
奥のほうで父さんが魚を捌いているのが見える。 母さんが食器を洗っているのも、、、。
 「あらあら弘明君じゃない。 どうしたの?」 「たまには散歩でもしようかと思って。」
「そんな風には見えないなあ。」 (ドキ、、、、。)
「まあ入りなよ。」 お母さんに勧められて俺は中に入る。
お父さんはちょうど昼の煮物に使う魚を捌いている所。 「弘明君も食べるか?」
「戴きます。」 「ところで香澄は知らないか?」
「うちに来てますよ。」 「やっぱりそうか。」
「母ちゃんがホットケーキを焼いたからって一緒に食べてます。」 「何だと? 人様の家でホットケーキを?」
「それで弘明君には?」 「俺にもって言ったら昨日の残飯を出してきました。」
「それはいかんなあ。 香澄はうちの子供だぞ。」 お父さんはだんだんと苛立ってきています。
 「お父さん 今はそっとしといたほうが、、、。」 「ダメだ。 香澄のためにもならん。 行ってくる。」
「ちょっと待ってよ。 まだお昼が、、、。」 「作ってたら間に合わん。 行ってくる。」
お父さんはお母さんが止めるのも聞かずに飛び出していきました。 「聞かん坊だからなあ、おとうさんは。」
 それからしばらくお母さんは無口になって魚を切っております。 「お腹空いたでしょう? もうちょっと待ってね。」
「すいません。」 「謝らなくていいの。 悪いのは香澄なんだから。」
 お母さんは切った魚を鍋に入れて煮込み始めた。 ショウガとか葱とか白菜とか有る物を刻んでは入れていく。
そこに味醂やら醤油を足しながら味見をする。 「よし、いいな。」
弱火にすると蓋をしてお母さんは溜息を吐いた。 その頃、お父さんは、、、?
 「こんにちは。」 「はーい。」
「どうも。 香澄がお邪魔してますよね?」 「は、はあ。」
「実はね、弘明君がうちに来てるんですよ。」 「お宅に?」
「散歩中だって言ってましたけど様子がおかしいんで呼んだんですよ。」 「それで、、、。」
「今、昼飯を作ってたところなんで一緒に食べてもらおうと思って準備してるところです。」 「いや、そこまでは、、、。」
「何ですか? あなたは割り込んだ香澄にはホットケーキを食べさせて弘明君には夕べの残飯を出したそうじゃないですか。 何考えてるんですか? 曲がりなりにも弘明君はあなたの子供でしょう? そこまで嫌いなんですか?」
「いや、だから、それは、、、。」 追い詰められた母ちゃんは言い訳を探している。
 「そんなことをするんだったら香澄をあなたに差し上げますよ。 その代わりに弘明君は戴きます。 いいですね?」 「それは、、、。」
 頭から煙を出していたお父さんは母ちゃんを睨みつけてから帰っていった。 「おばさん、、、。」
「心配しないで。 後で話しに行ってくるから。」 「いいの。 私が勝手に上がり込んだからこうなったの。 さようなら。」
香澄はホットケーキも食べ掛けのままで飛び出していった。 そこへ旅行先から帰ってきた姉ちゃんが、、、。
「お母さん、香澄ちゃんが飛び出していったけど何か有ったの?」 「いや、それは、その、、、。」
「私、追い掛けてくるわ。」 「待って。 待って。」
 我が家が大変な騒ぎになりつつある中、俺は上手そうな煮付けを食べながらお母さんと話し合っている。 「お父さん 大丈夫かなあ?」
「何で?」 (あの人は一本気なの。 これって決めたら突進するのよ。 それでこれまでも大喧嘩をしてきたの。」 「分かる気がする。 料理人は気が荒いっていうから。」
「間違ったことはしてないんだけどね。 突進するから誰にも止められないの。」 「分かるなあ。」
 お父さんはトラックに乗るとエンジンを吹かして走り去っていった。 香澄はというとこちらはこちらで脇目も振らずに突っ走っていった。
姉ちゃんはというと香澄が走っていったであろう芳香を探りながら追い掛けておりますが、なんせ曲がりくねった路地裏、何処をどう走っていいのやら見当が付きません。
 走りながらスマホを鳴らしてみた。 でも出るような気配は無い。
「何処まで行くんだろうなあ?」 不安になりながら俺に電話を掛けてきた。
 「電話だ。」 箸を停めてスマホを取り出す。 「何だ、姉ちゃんか。」
そう思って俺はそのままポケットにスマホを仕舞い込んだ。 「出なくて良かったの?」
「たぶん、大した用じゃないから。」 「だといいけどなあ。」
 煮付けを食べているとまたまた電話が掛かってきた。 「何か用?」
「弘明は何処に居るの?」 「香澄の家だけど。」
「そこに香澄ちゃんは居る?」 「居ないけどどうかしたの?」
「帰ってないのか。 じゃあ何処に行ったんだろう?」 「また行方不明事件?」
「そうなのよ。 さっき香澄ちゃんのお父さんが来てお母さんにブチ切れしたの。 それを聞いてたのかな、香澄ちゃんが飛び出していったのよ。」 「またか、、、。」
 スマホを切った俺はお母さんに礼を言って飛び出して、、、。 そこにお父さんが帰ってきた。
「どうしたんだい?」 「香澄が家を飛び出したって言うから探しに、、、。」
「弘明君は行かなくていい。 お母さんたちに探させなさい。」 「とは言うけど、、、。」
「元はと言えばあのお母さんが悪いんだ。 香澄を探し出して連れてくるまで弘明君は動かなくていい。」
 その迫力に押されてしまった俺は居間に戻ってきて残りの煮付けを突いている。 「お父さん、香澄は?」
「あそこまで甘やかした覚えは無いんだがなあ。」 「それはそうでしょうけど、、、。」
「だいたいなあ、遊びに来た子供にホットケーキを出して自分の息子には残り物を食べさせるなんて親のすることじゃない。」 「それは分かりますけど、、、。」
「分かるんなら黙ってなさい。」 お父さんはそう言うと鯛を捌き始めた。
「これは養殖物だけど身が締まっていて美味いぞ きっと。」 見ると真鯛だ。
「それでどうするの?」 「3人で刺身を食べようじゃないか。 なあ、弘明君。」
俺が返事に困っていると、、、。 「そういう時はなあ、嘘でも「はい‼」って言うもんだ。 それが男だ。」
そう言うもんだから「はい‼」って大きく答えてやった。 「おいおい、それは大き過ぎるぞ。 まいった。」
久しぶりに父さんが笑ったのを見てお母さんもホッとしたらしい。 やがてテーブルには酢洗いをした真鯛が並んだ。
「食べようじゃないか。」 「戴きます。」
 「香澄は、、、。」 ボソッと呟くとお父さんが不動明王みたいな怖い顔で睨んでくる。
以来、お母さんも香澄のことを話さなくなってしまった。 その頃、我が家では?
 「何処に行ったんだろう? さっぱり分かんない。」 姉ちゃんはあっちからこっちから路地という路地を探し回っている。
そしていつも俺たちが乗る駅にまでやってきた。 「この辺にも居ないのかなあ?」
 「あれ? 宏明君のお姉さんじゃない?」 「あら、りっちゃん。」
「誰か探してるんですか?」 「香澄ちゃんが居なくなったのよ。」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー? また?」 「そうなの。 だから探してるの。」
「この辺じゃ見なかったなあ。 ねえ、小百合。」 「うん。 朝から居るけど見なかった。」
「そっか。 何処に行ったんだろう?」 姉ちゃんの蒼ざめた顔を見て律子たちも動き始めた。
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