図書館でうたた寝していたらいつの間にか王子と結婚することになりました



 それから、その人は言っていた通り、たまに王立図書館中枢部を訪れるようになった。ここへ来る目的が分からなくて最初は警戒していたけれど、そもそもここに入れる人間は限られている。さすがに王家の人間が側近もつけずに一人でふらふらしているはずはないので、従者の一人といったところだろうか。それにしたって、昼間からふらふらしているのはおかしな話なのだけれど。

 でも、そもそもここに来る人間に根掘り葉掘り詳しいことを聞くのはご法度だとされている。余計なことまで聞いて、後々面倒ごとに巻き込まれないようにするためだ。求められる本を間違いなく提供する、それがここでの本来の仕事だ。


 何度か話すうちに、お勧めの本を聞かれるようになったので、何冊か貸すようになった。ここには重要な本ばかりではなく、普通の図書館にあるような流行りの本なども置いている。

「これ、ありがとう。結構おもしろかった」

「もう読んだんですか?早いですね。でもそれだけ面白いと思ってもらえたならよかったです」

 本を受け取って、私は整理していた他の本と一緒に本棚へ片付けようとしていた。自分のことは気にしないで自由に仕事をしていていいと言われたので、自由にさせてもらっている。

「うっ、届かない……」

 高い棚にしまうための階段を持ってくればいいだけなのに、ちょっと背を伸ばせば届くのではと思ったのが間違いだった。ほんの数センチ足りない。諦めて階段を取りに行こうかと思ったその時、背後から手が伸びて、私の手越しに本が棚にスッとしまわれた。

「大丈夫?」

「あ、ありがとうございます」

 思わず振り向くと、目の前にその人の胸があって、おでこがコツンと当たってしまう。

「すみません!」

「はは、おでこぶつかっちゃったね」

 そう言って、その人は少しかがみながら私のおでこに手を当てる。うう、すごく恥ずかしい……!見上げると、その人はとても優しそうな瞳で私を見つめていた。

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