マリアンヌに私のすべてをあげる

明日翔vsクリストファー


いまだに自分がマリアンヌに恋をしている事実に困惑しながらも、いつもと変わらない忙しない日々に追われ執務室で仕事をこなしていると、ロマンスグレーセバスチャンがやってきた。

『レオナルド様、クリストファー様からお手紙が届いております』

えっ?背筋凍らせクリストファーが私に手紙……果し状じゃねぇだろな……

おずおずとしながら手紙の封を切り目を通すと、プロヴァンス邸へ来るようにと書いてある。
これって間違いなく果し状じゃねぇか!?
私とタイマンする気か?
そういや女豹アドリアナにクリストファーの想い人を聞くようにも言われてたっけっ……それに私も知りたいよな。

その相手がマリアンヌなのかどうかを……

❤︎❤︎

背筋凍らせクリストファーに招かれた私は、プロヴァンス邸へと来た。

ーー緊張がハンパねぇ……

クリストファーの待つ部屋へ侍女に案内される。

ーーコンコン、

『クリストファー様、 レオナルド様がお越しになられました』

『通してあげて』

扉が開けられ部屋に入ると、視線の先にいたクリストファーが爽やかな笑顔で私を出迎えた。

『レオナルド、今日は忙しいなかをすまないね。来てくれてありがとう』

なんだなんか普通だな?

『い、いや大丈夫』

『どうぞここに座って』

部屋に置かれたソファに誘われ、言われるがまま腰をおろしクリストファーに目を向けると、相変わらず絵になる立ち姿と爽やかな笑顔のままでこっちを見ていた。
バッチリ互いの目線が合ったのと同時にクリストファーが口を開く。

『今日はさ、レオナルドに頼みたいことがあって呼んだんだ』

『…… 頼みたいこと?』

死んでくれとか言ってこないだろうな……

『今度は僕の絵を描いてよ』

『絵を?』

『レオナルドは絵を描くのが上手いらしいじゃないか。マリアンヌ嬢が嬉しそうに話してたよ。幼少期から君を知ってるけど…… そんな特技があるとはね』

『ま、まあ……』

『君のことを話す時に、あんなに嬉しそうな顔をしたマリアンヌ嬢を初めて見たよ』

『……そ、そうなんだ』

『いつからマリアンヌ嬢に気を持たせるようなことをするようになったの?』

氷のように冷たい空気が一気に張り詰める。

この野郎……顔つき変わりやがったな……
負けてらんねーー!!!!
ちゃんと質問に答えてやるよ!!

『気を持たせるとかじゃなくて描きたくて描いたんだ!! それに絵は密かな趣味だったから……』

『レオナルドのことがよくわからないな。マリアンヌ嬢を傷つけるようなことをしておいて、気まぐれな優しさを見せてみたり。どれだけ振り回すつもり? 一体君はマリアンヌ嬢をどうしたいの?』

私がマリアンヌをどうしたいかって……そんなの決まりきってんだろ。

『これからは仲良くしたいし、大切にしたいって思ってる』

『へぇ…… そんな心境の変化が君にあったんだ。僕には信じられないけどっ』

やっぱここはタイマンの場だったな。
こうなりゃハッキリさせてやろう。

『クリストファーはマリアンヌのことを気にかけてるみたいだけど…… どう思ってるんだ?』

おもいきって問いかけた私の前で全く動じる素振りも見せず、かすかに微笑むクリストファー。

この意味ありげな笑み……なんなんだ……

『僕がマリアンヌ嬢をどう思ってるかって………… マリアンヌは僕の初恋の人だよ』

は、初恋……
もしかしてクリストファーはマリアンヌのことを好きなのかもって思ってはいたけど……まさかの初恋相手だったのか。

『このことはレオナルドに一度も言ったことはなかったよね。スタンフィールド公爵家とソビエスキー伯爵家がレオナルドとマリアンヌの縁談を進めていたなんて…… あの頃の幼かった僕は知らなくてね。二人が婚約したことを知った時はひどく取り乱したよ。もっと早くに僕が動くべきだったと……』

そんな取り乱すほどにマリアンヌのことを……て、それがどーーしたッ!!
今は関係ねぇからな!!

『マリアンヌと初めて出会ったのは僕が十三の歳で、父に連れられてソビエスキー邸に行ったんだ。その際にマリアンヌを紹介してもらってね。初めの印象は大人しくて地味な女の子だなって思ったよ。僕に寄ってくるご令嬢はみんな派手で積極的な子が多かったからね。僕とマリアンヌは父とソビエスキー伯爵が話している間、二人だけで庭へ行ったんだ。そこでマリアンヌが花が好きだって話してくれてね…… 庭に咲く花のことを僕にたくさん教えてくれたんだ』

そんくらい私だって知ってるわ!!
マリアンヌは花も好きで、小さな生き物や甘いもんも好きなんだよッ!!

『なんだか…… 花の話をしているマリアンヌが生き生きとしていて、とても愛らしく感じてね。だから次に会った時に、屋敷のバラ園で咲いた希少な青い薔薇を摘んでマリアンヌに贈ったんだ。そうしたらすごく喜んでくれて…… その瞬間、僕に見せた笑顔が天使の笑顔だった。 胸が高鳴ったよ。こんなにも無邪気で可愛らしい女の子に出会えたことに。あれからずっと……今でも僕はマリアンヌを想ってるんだ』

ーーなんだよ……ピュアかよ……

『それで何が言いたいの?』

絵を描いて欲しい話で呼び出したんじゃないだろうよ。

『マリアンヌとの婚約を破棄して欲しい』

ほらな、そうくると思った……

『イヤだって言ったらどうすんの?』

『あの日…… 君に傷つけられて泣いていたマリアンヌの涙を拭ってから、自分の気持ちを抑えることが出来なくなったんだ。婚約破棄は家名を汚す行為だし、今までレオナルドがマリアンヌに一切興味がなくても婚約を破棄しなかったのは、お父上でもあるスタンフィールド公爵の体裁を守るためだったんだろうけど…… そんなことは終わりにするべきなんだよ。だから僕も引く気はない!! 君が婚約破棄すれば、僕がすぐにマリアンヌにもソビエスキー伯爵にも結婚の申し出をしに行くつもりだ。ずっとマリアンヌを蔑ろにしてきたレオナルドと、ずっとマリアンヌだけを想っていた僕、どっちがマリアンヌを本当に幸せに出来るかは明白だと思うよ』

なんだそれ……私だって幸せにしたいって想ってるわっ!!

『婚約破棄はしない。絶対にしないから!!』

ーーマリアンヌは私のマリアンヌだ!!!!

『 散々今まで傷つけておいて、よくそんなことが言えるよね。まぁいいよ。少し考える時間をあげる。婚約破棄するにも色々と段取りもあるしね』

うっせぇよ。
そんなのイヤすぎんだろ……他の誰かのもんになるなんて……

『考えは変わらない。話も済んだしこれで帰らせてもらう』

『そう…… だけど僕も変わらないから。必ず考え直してくれると信じてるよ。屋敷に帰って頭冷やしてからまた考えてみて』


クソッ悔し!!!!
私はレオナルドじゃねーーんだよッ!!!!
なのに好き放題言いやがってさっ!!
おまけに全部が完璧すぎて文句のつけどころがない男だから余計に悔しい………
あーーーームシャクシャする!!
スッキリしねーー。
なんでこんなモヤってんだろ?

……てか……今の私……誰なんだよ……









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