マリアンヌに私のすべてをあげる

私の幸せはマリアンヌの幸せ


私がぶっ倒れてから数日が過ぎ、なんとか普段の生活に戻れるくらい元気になった。
医者によると体には異常はなく、倒れた詳しい原因は不明らしい。
疲れも溜まっていたんだろうとのことだった。
ほら見たことかロマンスグレーセバスチャン、過労死させられるとこだったじゃん!!
まぁここにきてから、毎日慣れない生活に四苦八苦させられてたせいもあるだろうけど……。

今日、マリアンヌが私を見舞いに来る。
ロマンスグレーセバスチャンから聞いた話だと、私が倒れていた二日間、マリアンヌは自分の屋敷には帰らずにずっと側に付いてくれてたらしい。

有難いよな……目覚めた時マリアンヌが側にいてくれて心強かった。
そして何より嬉しかった。
それだけで十分だ。

今日はエントランスに出てマリアンヌを出迎えたりもしない。二人で一緒に庭へも行かない。
マリアンヌが着いたら部屋へ連れて来るように頼んでおいた。


ーーコンコン、

『レオナルド様、マリアンヌ様がお越しになられました』

『どうぞ』

ラナが扉を開き、バスケットを手に持ったマリアンヌが部屋に入ってきた。

『マリアンヌ様、それではごゆっくり』

『はい。ありがとうございます』

扉が閉まって二人っきりになるとすぐに私へ歩み寄り、バスケットの蓋を明るい笑みを浮かべながら開けて見せるマリアンヌ。

『アスカさん、サンドイッチを作ってきたんです!! 前に美味しいって言ってくださっていたので。ご体調がよろしいのであればこれから一緒にお庭に出て食べませんか?』

『うおーー!! ウマそうなサンドイッチだっ!! ありがとう。でも庭じゃなくてここで食べてもいいかな? まだ病み上がりだし…… この部屋で食べようよ!!』

『そ、そうですよね……ここで一緒に食べましょう』

『うん。そうしよう』


二人で肩並べながら部屋のソファに座った。
テーブルの上にはマリアンヌお手製のサンドイッチが置かれてる。

マリアンヌのサンドイッチはめちゃウマだからなぁ。

ーーしっかり味わって食おう!!

『それじゃあ早速いただくよ』

『はい、どうぞ召し上がってください』

私はサンドイッチを片手に持ち、いつものように大きく口を開けて頬ばった。

『うまっ!! マリアンヌのサンドイッチは最高にウマいや!!』

『ウッフフ、最高だなんて仰って……ですがウマいのでしたら良かったです!! フフ、お口が汚れていますよ、アスカさん』

ハンカチを取り出したマリアンヌが穏やかな顔をして、私の口をトントンとしながら優しく拭いた。

ズキッ、、

ーー胸が痛むなっ……

『…… ありがとう』

『いいえ。ウフフフ』

マリアンヌの笑顔は太陽よりも輝いて眩しい笑顔だ。

ーーキレイだよ。

❤︎❤︎

『サンドイッチ、美味しかった。作ってきてくれてありがとう』

『アスカさんがお元気そうで安心しました。私こそ美味しそうに食べていただけてとても嬉しいです』

『本当に美味しいから……』

『また作ってきますね!!』

にこりとしながら声を弾ませるマリアンヌ。

……これが……これが最後になるなら……せめて最後に……

『マリアンヌ、髪にゴミが付いてる』

『えっ、、』

ブラウン色した長いゆるふわウェーブヘアにそっと触れる。

ーーズキッ、、

『とれたよ……』

『ありがとうございます!!』

『うん』

言わなきゃな……ちゃんと言わないと……

『あのさ、実は今日マリアンヌに話があるんだ……』

『私にお話? なんでしょうか?』

大きな瞳を煌めかせたマリアンヌが私を見る。

手が……じんわり汗ばんできたな……
今更ためらってどうする……

ーー言うんだッ!!!!

『私はマリアンヌとの婚約を破棄するよ!!』

『へっ……』

『知ってのとおり私は女だし、もっと早くにそうするべきだったのに……自分のことを知っても離れずに側にいてくれたマリアンヌの優しさに甘えてしまって…… 出来なかったんだ』

自分の身勝手な欲求を満たすためにマリアンヌを不幸にするとこだった。

ごめん。

『わたし…… 私はまだアスカさんのお側にいたいです!! 今だってこうして一緒にいると楽しいですし!!』

『今一緒にいて楽しくても、ずっと一緒にはいられない。マリアンヌもいつか誰かと結婚して家庭を築いていきたいでしょ? それなのに中身が女の私であるレオナルドの婚約者のままでいたら、いつまで経っても幸せにはなれない。友達として一緒にいたいって思ってくれる気持ちは嬉しいけど……このままじゃダメなんだ……』

『でも、でも……せっかく仲良くなれたのに……』

『でもじゃないよ。マリアンヌは優しすぎだ。もう自由になれるんだから…… そんな心配そうな顔しないで。私は一人でも大丈夫だからさっ』

『わ、私……』

ダメだ……これ以上何か聞いたら決意が揺らぐ。
まだ、まだこうして一緒にいたいって思ってしまう……

『マリアンヌ、ごめんッ!! じきに医者が診察に来るんだ。今日はこれで帰ってもらってもいいかな……。婚約破棄についてはマリアンヌのご両親にも、スタンフィールド夫妻にも私のわがままでそうさせてもらうって伝えるし、なるべく穏便に婚約破棄出来るようにしっかり考えるから安心して』

『は、はぃ……』

これでいつレオナルドがこの身体に戻ったとしても、マリアンヌが悲しむようなことはなくなる。

『お見舞いに来てくれてありがとう』

『いぇ……』


小さく返事して部屋から出て行くマリアンヌの後ろ姿を、胸が張り裂けそうな想いで静かに見送った。

マリアンヌは絶対に幸せになれるから。
今まで私と一緒にいてくれてありがとう。









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