マリアンヌに私のすべてをあげる

私のマリアンヌ


こうして花と緑の楽園でまた会えるだなんて夢にも思わなかった。
でも一体なんの話だろう?

『聞いて欲しいことって何?』

少し戸惑いながらもマリアンヌの吸い込まれそうになるキレイな目を見ていると、あたたかな手が私の冷たい手を包んだ。

ーーど、どしたっ?

『私はアスカさんと一緒にいたいです!!』

……そんなわざわざ会いに来てまで一緒にいたいだなんて言ってくれるとは……ぼっちの私をよっぽど気にかけてくれてたんだなぁ。

『心配してくれんのはありがたいけど…… マリアンヌは自分の幸せを優先させないと』

『私の幸せを優先させてもよいのでしたらアスカさんと一緒にいます!! 私はアスカさんがスキなんです!!』

…………へっ!?

これは都合のいい空耳か?
マリアンヌが私をスキって言ったような……?

『ご、ごめん、最後のほうなんて言った?』

『アスカさんがスキです』

頬つねってみるしかねぇな。

イテッ、、

ーー夢ではない……

マリアンヌはどうかしてしまったのか?

『私が女だって知ってるよね?』

『知っています』

じゃあなんでそんなことを?
もしかして……

『それって友達としての好きを勘違いしてるんだよ』

だってそんなのおかしいだろ……
本物のイイ男クリストファーがいんのに。
こんな得体の知れない奴をスキになるなんて……姿は男でも中身は女だって言ってさ……

『そうではないんです!! 確かにはじめはお友達としてアスカさんを好きになりました。でも今は違う…… 決してお友達には(いだ)くことのない感情を(いだ)いてる』

やっぱマリアンヌは勘違いしてるな。

『マリアンヌには…… ほんとの私の姿が見えてないからそんなことが言えるんだよ。レオナルドの姿をした私が好きなだけ。それは私をスキってことにはならない!!』

『そのお姿がこの目に映らなくても、私はアスカさんを見てるんです!! レオナルド様のお姿であることは関係ない、男性とか女性とかだって関係ないんです』

そこが間違ってんだよ……男も女も関係ないだなんて言えんのは、何も見えてないから言える綺麗事。

ーー私を知ればそんなこと言えなくなる。

『男も女も関係ないって言うけど…… 私は女として生きてきて、これまで何度も何度も何人もの男に抱かれた。これがわたしっ!! マリアンヌには見えてない私なんだ!!』

ーー目の前にいるのはまぎれもなく女なんだよ……

マリアンヌの視線を逸らすように私は深くうつむいた。

『アスカさん、顔を上げて下さい。私はちゃんと見てますから……私を見てくれたように。私の心を動かしたのは他の誰でもなくアスカさんなんですよ!!』

ーー私がマリアンヌの心を……

すっと顔を上げてみると、マリアンヌが私を真っ直ぐに見つめていた。

『前にお話ししましたよね…… 私は自分のことが好きになれないって。自信がなくて…… ずっと下ばかり向いて生きてきた。けれどある日、そんな私の顔を上げてくれた人が現れた。その人は私のそばかすを見て可愛いって言ってくれて、その人は私の絵を描いてくれました。その絵の中の私はとっても輝いてて…… そこには私のなりたい私がいたんです』

ーーそんなふうに想ってくれてたんだ……

『アスカさんは私の顔を上げてくれた人。私を輝やかせてくれた人。どんな姿であろうともアスカさんがスキ。一緒にいさせて欲しい』

マリアンヌ……私だって一緒にいたい……
けど……

『ダメだよ…… これから先レオナルドがどうなるかわらかない。一緒にいるといつか後悔する日がくるかもしれないんだっ!!』

込み上げてくる感情を必死に胸の奥へと押しやるようにして言った。

『一緒にいない道を選ぶほうが私は生涯後悔します。アスカさんのすべてを受けとめてここに居るんです!! すべてわかったうえで…… それでも一緒にいたくて……』

ーーマリアンヌ……

『またサンドイッチをウマいって言って食べて欲しい。ダメですか?』

こんなのもう……気持ちを抑えられなくなるじゃん……

ダメなはずないだろう。

『マリアンヌと別れてからさ、自分は何者なんだろうって考えてた…… レオナルドでもない、明日翔にもなれない、男でもない、女にもなれない…… そんなこと考えてたら、なんだか自分が死んでるように思えてきてさ。私には何も無いって、一瞬怖くなったけど…… 一つだけ残ったもんがあった』

ーー今もずっと心の中にある……

『それはマリアンヌへの想いだ。最初に会った時、不安そうにしてるマリアンヌを見て守ってやんなきゃって思った。それが一緒に過ごしていくうちに、だんだん惹かれていって…… スキになってた。気づいたら自分のほうがマリアンヌを頼ったり、甘えてて。もっと一緒にいたい、いつも隣で笑ってて欲しいって想ってた……』

ーー私の最初で最後の恋だ。

『目覚めたら自分がどうなってるのかもわからない、たしかな明日を約束だってしてあげられない…… こんな私の側でもいてくれる?』

マリアンヌの手を私は強く握り返した。

『アスカさんの側にいたいです!!』

このよどみのない声は、その真っ直ぐな()は、迷うことなく私に応えてる。

そっか……それなら遠慮しないからな!!
覚悟してもらおう。

ブラウン色のふわっとした柔らかな長い髪に指を通す。

『ねぇ、キスしていい?』

ーーどんな反応すんだろう……?

『ハッ、は、はい……』

すげーー赤くなってんじゃんか!!
しかも……ギュウと目ぇ閉じて待ってくれてるし……

ーーめっちゃくちゃ可愛いすぎるんですけど!!!!

なんか軽いキスで我慢しておいたほうがよさそうだよな。

ゆっくりと顔を寄せマリアンヌのくちびるに優しくキスをする。

私は死んでなんかないじゃん…… こんなにも心臓がドキドキしてんだから。

たった一つだけ、約束するよ。
マリアンヌに私のすべてをあげるって……






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