君が帰るところが私って言ったから、私も帰るところは君
 夏美は公園墓地にお参りに来た。春奈が納められているお墓にお花を供えて、お線香をあげた。手を合わせて拝んだ。

「春奈、ありがとう。元気もらえたで。また来るね」

「やっぱり、死んでたんや。なんかおかしいと思ててん」

 夏美の横から春奈が言った。

「春奈」

 夏美が思わず名前を呼んだ。

「なんか記憶がいっぱいとんでるし、新幹線とか乗った覚えないのに東京行ってたし、スマホ持ってないし」

「死んだん知らんかったんや、ちょっと、そんな気してた」

「今、お墓のここに名前書いたるの見て確信した」

 墓の脇の墓誌には春奈の名前が刻まれていた。

「そうか、大学卒業してから、ドライブ行ったなぁ。その時、対向から、はみ出した車、避けきれへんで事故った……」

 春奈はしゃがみこんで、頭を抱えた。

「大丈夫、春奈」

 夏美は春奈の横にしゃがみこんだ。

「大丈夫やで、ちょっと怖くなっただけやから」

 春奈は立って空を見上げた。

 夏美も立って空を見上げた、涙が溢れないように。

「そうやで、春奈が避けようとしてくれたから、正面衝突にならず、シートベルトのあざだけですんだ。春奈のおかげやで」

 二人は顔を見合わせた。二人の頬を涙がつたって落ちた。

「そうか。そうなんや。……お墓参りきてくれてありがとう。夏美のこと、気になってたんや。元気な夏美見たら、なんか安心してきた。これで、お別れかもしれん」

「春奈、最初見たとき、びっくりしたけど、すぐに嬉しさに変った。会えてホンマに嬉しかったんやで、これからも何度でも会いたい」

「そうやな、私も会いたいよ。せやけど、それはわからへん」

「そんなん言わんといて、また、会いたい」

「お盆やからか、夏美のピンチやったせいかな。また、ピンチになったら会えるかもしれん」

「ピンチになったら、会える?」

「わからへんけど、……私の体はこの世界に広がったんやで、いつも夏美といっしょやで、そして、夏美が思てくれるかぎり、私は夏美の心にいるで」

 夏美も春奈もまた涙を流していた。

「わかった。わかりたくないけど、わかった。私頑張るわ、春奈の分も頑張る」

 夏美は胸に片手を当てて、付け加えた。

「ここに春奈は、居てる。そうやな、春奈」

「うん、そうやで。そう」

 春奈の輪郭が光だした。

 夏美は春奈の腕を取ろうとしたが、空を切っただけだった。

「夏美、さよなら」

「春奈、ありがとう、さよなら」

 夏美が別れを告げて、春奈は黙って頷いた、そして春奈は光の粒子となって広がり、消えた。

 夏美は膝から崩れて、泣いた。
 


 夏美は、東京に戻った。正社員はやめて、アルバイトしながら、声優を目指している。

 いつか、春奈の小説がアニメ化されたら、自分が声優をする。そんなつもりで頑張っている。



 夏美の声がする。

「いやいや、春奈死んでないし、私、挫折してないし、ゴミ部屋住んでないし、もうナレーションの仕事もしてるし。なにこの小説! 自分は、ええかっこし過ぎ」

 春奈の部屋で、夏美と春奈が並んでベッドに座っている。夏美は春奈の小説の原稿を持っている。

 春奈が言う。

「ええやん、自分が書いてんねんから、ええように書くわ」

「親に小説見せるの? あんたとこの両親、どっちか言うたら元気過ぎ」

「ええねん。元気過ぎやったら、小説ならんから。こういう風に書いたらええ感じになるやろ、そんで頑張らなあかん気するやろ」
「まあ、少しは」

「この小説、アニメ化ならへんかな、最終的にはアニメ化が目標なんやけど」

 春奈が夏美を覗き込みながら言った。

 夏美は「そんなん、なるかいな」と思ったが。

「春奈が書いた小説がアニメになったら絶対声優したる。お互い頑張ろな、春奈」と言った。

 夏美は「お互い頑張ろなは、ホンマやで」と心で呟いた。

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