楽になりたい
「ねぇ友香。」
絞り出された雪乃の声が広々とした病室に響く。
「友香は今いじめてきた人たちと関わりある?」
「ないよ。あれから学校行ってないし」
「そっか……」
関わりはない。
そう聞いた雪乃の目は絶望の色に染まった。
「言うかどうか悩んでるんだけど」
「うん」
「私さ、SNSで繋がってるんだよね。あの子たちと」
「そうなの?」
雪乃が入院する1週間前。
私のスマホは池に投げ込まれて水没した。
買い直しても同じことをされるだけだと思い、今はスマホを持っていない。
「先週『入院したからって終わりだと思うなよ。どこまでも追いかけていじめてやるから』ってメッセージが送られてきて。担任の先生はいじめてきた人たちはみんな停学処分にしたって言ってた。だからもう大丈夫って思ってたのに。ねぇ、私はもうあの人たちから逃げられないの? もう終わりなの?」
「雪乃……」
肩を震わせ、瞳を今にも零れ落ちそうな涙で潤ませる雪乃。
知らなかった。
いじめてきた子たちが、停学になったからって懲りないことくらい分かりきっていたはずなのに。
私はスマホを持っていないからメッセージを送ることが出来ない。
だから雪乃にだけ送ったんだ。
雪乃が手の震えを抑えるためか、白くなるほど強く手首を握りしめる。
白い包帯にだんだんと血が滲んでいく様子を眺めながら、私はある感情に気づいた。
違う。
本当はずっと前から気づいていた。
認めたくなくて、信じたくなくて、必死に目を背けていただけだ。