公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「まぁ、そんなエステルから未来の旦那様が仕える王子は有能だけど夢見がちで時々ド阿呆が過ぎるから手を貸してやって欲しいって頼まれて」

 多分エステル王女の性格から推察するにそんなにどストレートには書いてなかっただろうが、留学先にいる友人に気にかけてあげて欲しいと願うくらいは不安な要素がある王子様なのだろうとベルは察する。

「もしや王子の留学理由が花嫁探しっていうのは……」

 ベルの言葉を遮ってちっと舌打ちするやさぐれモードのシルヴィアは、

「はぁ、もう。勝手に運命のレディでもなんでも探しなさいよ。私以外で」

 そう嘆いてテーブルに突っ伏す。

「正直覚えてないわよ、留学試験の時に学園で困ってた王子を助けた事なんか」

 試験のボランティアに行っていたシルヴィアが、筆記用具一式忘れてきてテンパっていた王子を助けたらしい。

「ペンって、うちとストラル社共同開発の?」

「そう、それ!」

 とシルヴィアは件のペンを取り出す。
 それはブルーノ公爵家ストラル伯爵家共同事業として展開している商会"月の番犬"の商品の一つ。
 万年筆よりさらに手軽に書きやすくを売りとして製作されたそのペンはストラル社で開発された新しいインクとペン先にボールを内臓した技術を採用。
 デザインと販路開拓は月の番犬で担当し、その宣伝の一環としてシルヴィアは試供品を学内で配布していたのだ。

「ふふ、おかげさまで各所から大量発注入ってますよ。さすがシル様」

「いや、私はベルの戦略通り配っただけだけどね」

 使い勝手のよさから愛用する学生が増え、子どもが使っているペンに興味を示してくれた親から会社の備品に採用したい等の問い合わせ殺到。
 おかげで売り上げは順調に右肩上がりだ。

「ペンもらったくらいで恋に落ちる、って。私が今までに一体何本ペンを配ったと思ってるのよ」

 そんなので赤い糸とやらが結ばれたら小指が見えなくなっちゃうわとシルヴィアは憂い顔でため息を落とす。
 うっかり物語のような出会い方をしてしまい、そんなこと綺麗さっぱり忘れてしまっていたシルヴィアは留学して再会した王子相手に気付かないうちにフラグを乱立してしまっていたらしい。

「何が腹立つって、やり口がアネッサ様そっくりなのよ!」

 気づいたら王子に外堀を埋められそうになっているこの状況。絶対アネッサ様が裏で糸を引いてるわよと頬を膨らませる。
 アネッサはエステルの姉でナジェリー王国の第一王女。すでに彼女は他国に嫁いでいる身だが、可愛い妹のためならばやりかねないなとベルも同意する。

「むぅ、そのうち絶対ぎゃふんって言わせてあげるんだから」

「あらまぁ、それは随分高い目標ですね」

「……できないと思う?」

「いいえ、できますよ。相手を素直にすごいと認められて努力を惜しまないシル様なら」

 初めてアネッサがこの国に来た時に、彼女の手のひらの上でいいように転がされ、惨敗してきて泣き喚いていた日が嘘のよう。
 自身の状況を把握し、打開策を練ろうとするシルヴィアの成長は著しく、本当に頼もしい限りだ。
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