野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)
 源氏(げんじ)(きみ)二条(にじょう)(いん)にもお帰りにならない。葵の上の死を深く(なげ)きながら、左大臣(さだいじん)(てい)でお(きょう)を読まれる毎日だった。恋人たちのところへは手紙だけをお届けになる。
 六条(ろくじょう)御息所(みやすんどころ)は手紙に返事をなさらない。姫宮(ひめみや)伊勢神宮(いせじんぐう)斎宮(さいぐう)になる準備中でいらっしゃるから、というのが口実(こうじつ)だった。
 源氏の君は何もかも嫌になって、いっそ出家(しゅっけ)しようかとお考えになる。しかし、生まれたばかりの若君(わかぎみ)を見捨てて僧侶(そうりょ)になるのはためらわれた。それにきっと今ごろ、二条の院では若紫(わかむらさき)(きみ)がしょんぼりなさっているはず。やはり出家はできそうにない。
 夜は夫婦の寝室で(ひと)()をなさる。女房(にょうぼう)たちは寝室近くに(ひか)えているけれど、隣が空いているのはお(さび)しい。
<ただでさえ物寂しい秋なのに>
 目を覚ましがちにうとうとなさっていると、明け方が近づいて念仏(ねんぶつ)(とな)える僧侶(そうりょ)の声が聞こえてくる。また夜が明ける。
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