野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)
 いよいよご出発のとき。源氏(げんじ)(きみ)左大臣(さだいじん)(てい)を見回される。
 ついたての後ろなど、あちこちに三十人ほどの女房(にょうぼう)たちがいる。みんな喪服(もふく)を着てひどく心細そうなのを、源氏の君は同情なさった。
 左大臣(さだいじん)がおっしゃる。
若君(わかぎみ)はこの屋敷でお育てするのですから、何かのついでにはお立ち寄りくださるだろうと期待しております。しかし女房たちのなかには、あなたはもうこれきりここへはお越しにならないと悲しんでいる者も多いのでございますよ。姫が亡くなったこと以上に悲しんでいるほどです。
 あなたはあまりこの屋敷をお気に召さないようでしたが、いつかはきっとここで暮らしてくださるだろうと、私は夢見ておりました。その夢がついに破れる、悲しい夕べでございます」
 もう涙がとまらない。

「そのように悲しまれますな。姫君(ひめぎみ)がお元気だったころは、正式な夫婦であることに甘えてご訪問をなまけることもありましたが、今となっては甘えられる理由もございません。こちらがなまければ切れてしまうご(えん)だと分かっておりますから、私の誠意をご覧ください」
 そう左大臣に約束して、源氏の君はご出発なさった。
 乗り物を見送った左大臣は若夫婦の部屋にお戻りになった。部屋の中は何も変わらないはずなのに、急にがらんとしてしまった。(せみ)()(がら)のような(むな)しさをお感じになる。
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