後悔
「ふー、良かった良かった!
作り直しとか、さすがにオープンに間に合わねぇわ。」

「作り直し?」

「まぁ…、俺が作ったからな!」

「えっ!?作った…?」


ちょっと照れ臭そうに、だけど自信ありって感じでケンジさんは唇の端を吊りあげた。
ケンジさんの顔を見れば冗談を言っているようには見えない。
本当にケンジさんが作ったと信じる他ない。

それにしても、このクオリティーの高さ。
これが美容師の仕事だと誰が気づくだろう。
売り物みたいにキレイな出来栄えだ。

私がカウンターが欲しいって言った約束をこんな形で叶えてくれるだなんて思ってもみなかった。
いつ作ってたのだろう。
仕事と開店準備しながらの生活をしばらく続けていたというのに。
忙しいのに、きっと長い時間かけて作ってくれたんだろう。

疲れていたはずなのに、その姿を想像すると涙が出てきてしまった。
まさか、こんな私にまだ涙が出るほど感動する心が残っていたなんて。

思わず溢れてしまった涙を慌てて隠すようにカウンターの下へしゃがみこんだ。
慌てて涙を拭うと、カウンターの内側に何かを見つけた。

そっと、それに手を伸ばし触れてみる。



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