崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 そうハッキリ断言すると、増本さんが少し考え込んでから再び口を開いた。

「では、他の誰かにしたことは? その話した相手が、来栖先生に話したとか」
 増本さんから聞かれた内容を頭の中で反芻し、やはり私は首を振る。

 この話を知っているのは、私と、高尚だけだったからだ。

「ネーム、直します」
「澤先生」
「お時間取ってすみません。新しいネームが出来次第また送ります! スマホ、ありがとうございました」
 早口でそれだけ伝えた私は、慌ただしく小走りで編集ブースを出る。

(頭、ぐちゃぐちゃだ)
 わからない。どうしてこうなった? 何がどうなってこんなことになったの。
 
 このエピソードは間違いなく私が考えたもののはずだ。
 高尚の家で、彼と話しながら展開を考え、高尚と一緒にわくわくと次の話を考えていた。

「この間の週末はあんなに楽しかったのに」

 特に何か特別なことをしたわけではなかったけれど、脱稿を祝い、一緒にぐうたらして、日用品を買い足して。
 何気ない日常がすごく楽しかったのに、今はまるで足元が抜け落ち真っ暗な世界へひとり落下してしまったような気分だった。

 浅見がしたの?
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