崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 ありえない。だって私のクラウドファイルに保存してあっただけで、私はこのプロットを書き出したり印刷したりもしていない。
 私自身が浅見に直接この展開を教えたこともないし、次の展開を相談したということもなかった。

「まさか、全部偶然?」
「それはこちらからはわからないこと、ですね。ただ決定的なのは、来栖先生のこの漫画がSNSという場で既に発表されていて、そして沢山の読者が目にした、ということです」
 増本さんの言葉を聞いて再度浅見の投稿を確認する。
 正直大バズりしているか、と聞かれればそこまでだが、それでもそれなりに拡散されていた。
(浅見のファン層は、私と同じだ……)
 同じ雑誌の漫画家なのだ。読んでくれている読者層は同じ。つまり浅見の漫画を楽しんだ人たちが、私が連載中の雑誌の読者でもあった。
 全員が私の漫画を読むわけではないだろうが、それでもどちらも読む人は少なからずいるはずだ。

「……あの、澤先生はご存じなかったんですよね」
「え? あ、はい」
「このネタの話を、来栖先生にされたことは?」
「していません」
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