崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 ズキズキと痛む頭を抱えつつ、またも売り言葉に買い言葉の要領で勢いよく立ち上がる。ズキッと一瞬鈍く頭の奥が痛み、下半身が涼しい。
「涼しい!?」
 その違和感に驚き改めて自身の体へと視線を落とすと、彼が履いているスウェットとセットなのだろう上衣だけを着ている。下着とズボンは着用していない。
「ひゃぁあ!」
「あぁっ? 今度は何――あぁ、下着か。昨日みのりに服着せた時に洗濯回したから、そろそろ乾いてんじゃね?」
「洗濯機どこにあるのよっ」
「洗面所」
 うぅう、と恨めしい気持ちで彼を睨みながらスウェットの裾で必死に下半身を隠していると、ふぅ、と小さく息を吐いた高尚さんが寝室から出ていく。
 このままだと羞恥で私が一歩も動けないことを察してくれたらしかった。

「どうしてこんなことに」
 ズンッと暗い気持ちになりつつ一人寝室に残された私は、初対面の男とワンナイトやらかしただけでなくその男にせっせと世話までやかれたらしい情けなさで半泣きになった。流石にこれ以上私を気落ちさせることは早々ない、なんて考えつつ部屋から出ようとし、ふとベッド横に置かれているゴミ箱へと視線が向く。
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