崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない

1.責任の所在はどこにある④

 その事実に気付いた私は、そっと彼の方へ両手を差し出す。
 突然両手を差し出され戸惑った彼が私と手を交互に見比べるという視線を感じながら、私は力なく口を開いた。
「逮捕してください」
「はぁ?」
「入沢みのり、ペンネームは澤みのり。三十歳と連載の打ち切りを目前にした私は立派な犯罪者です」
「いやいやいや、どうしてそうなった?」
 さっき彼がしてくれたように自己紹介を絡めながらそう告白すると、呆れを通り越してどこか不満そうに眉間にしわを寄せた高尚さんと目が合った。
 ちなみにわざわざペンネームごと名乗ったのはふざけているわけではなく、それほどまでに私たちは互いのことを知らないからである。だって昨日初対面だし。

「プッ、ふはっ、あははっ」
「……?」
 観念し投降しようとしている私とは対照に、突然彼が思い切り笑い出す。それがあまりにも突然かつ想定外だったため、私はあんぐりと口を開いて固まった。
「いや、弁護士は、ひひっ、手錠かけねぇよ」
「そ、それはそう、だけどっ」
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