崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない

2.これが、私なのだから②

(でも、本当に多分大丈夫なんだよね)
 なんて考えながら高尚の最寄り駅の改札を抜けると、迎えに来てくれていた彼がいち早く気付き片手をあげる。
「お疲れ」
「高尚もお疲れ様」
 お泊まりセットも入った大きめのトートバッグをサッと私から奪うようにして自身の肩にかけた高尚は、どこか意地悪そうに目を細めながら左手を下にさげたままひらひらと振った。

「え、それ私から手を繋いで欲しいって合図?」
「いや。みのりが手を繋ぎたいならご自由にどうぞって合図」
「なにそれ」
 相変わらずの自信過剰なその言い回しに思わずムスッとすると、高尚が可笑しそうにぷっと吹き出す。
 これで手を繋ぎに行くと、「やっぱり手を繋ぎたかったんだ?」なんてからかいが来るし、そのくせ手を繋がなければ繋ぐまでじっと動かない。
(ほんっと、見かけによらず子供っぽいんだから!)
 たった三歳だか、私より年上のくせにそうやってからかってくる姿はまさに中学生のようで、私は内心ため息を吐きつつも彼の手を握った。
 それでも彼のそんなところが嫌だとは思えないのは、着実に私も高尚への好きが大きくなっているのだろう。
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