崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 ひとりで作業している時は集中するとすぐに食事を抜いてしまっていたが、今は一応家デートというか仕事デート中。そして食事の時間は唯一彼とゆっくり話せる時間だったのに、と焦って彼の方へと視線を向けた。
 これを幸いと言っていいのかはわからないが、高尚も高尚で仕事に集中していたらしく、時間を確認して声をあげた私にも気付かずいまだにパソコンへと集中している。人のことは言えないが、彼も大概仕事中毒のようで、内心安堵した。

(さっきは高尚がコーヒーを淹れてくれたもんね)
 さっき、とは言ってもふたりで休憩を取ったのは夕方の四時過ぎだったので、かれこれ七時間以上前にはなるのだが。

 仕事を頑張る彼に思わず口角が緩んでしまう。もちろん休んで貰い、健康でいて欲しいというのは本心であるが、それと同時に仕事を優先して私を疎かにしてくれることが有り難いと感じていた。何故なら私の仕事を優先したいタイプだからだ。
(お互い様って言えるの、ほんっと楽だわ)
 
 ふふん、と鼻歌混じりにキッチンへと向かう。
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