崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない

2.これが、私なのだから⑤

「そろそろ再開すっか」
「うわっ、ぐしゃぐしゃにしないでよ」
「ははっ」
 まるで子供にするように両手で頭をぐしゃぐしゃに撫でられ、髪の毛がボサボサになってしまう。そのことに思わず文句を言うが、高尚は笑っただけでそのままダイニングテーブルの方へと戻って行ってしまった。
 ジトッと彼を見るが、席へと戻った高尚はもう私の方なんてチラリともせず眼鏡をかけてパソコン作業を始める。その姿を確認し、残ったコーヒーを一気に呷った私も再びタブレットへと手を伸ばしたのだった。

 それからどれくらいの時間がたったのだろうか。
 大ゴマの下書きをほぼ終わらせた私はポキポキと凝り固まった肩と首をほぐしながら時間を確認し――
「噓ッ! もうすぐ日付が変わるんだけど!?」
 想像より時間がたっていたことに愕然としながら思わず声をあげた。
 
 てっきり二十時くらいだと思っていたのに、まさかもう二十三時を大きく回っているだなんて。というかむしろあと十五分ほどで日付が変わってしまう。
(うわっ、ご飯も食べてない)
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