抜け、幸子!
第3コーナー、幸子が芳樹に追いついた。


が、幸子は芳樹を追い抜くのを躊躇って芳樹と並走している。

明らかに幸子は抜いていいのか、抜くべきなのか迷っている。

それに気づいて、私は思わず大声で叫んでいた。


「抜け、幸子!! 抜いていいんや。ためらわんと抜いていい。なにがなんでも抜け!」

幸子は抜いた。

大声援を受けて懸命に走る芳樹を。

「あ~ぁ、抜かれる」

観衆のガッカリした溜め息と、「なんで抜けるん」という冷たい視線と批判の中、幸子は芳樹を一気に抜いた。


走り終わった幸子は「わーーーあ!!」


批判の声に押しつぶされ、不安と苦しさを顔いっぱい浮かべ、大声で泣きながら、私に抱きついた。

「先生、これで良かったんやね……アタシ、間違ってないよな」

何度も何度も繰り返した。



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