歩くリラ冷えの風

「小日向、何騒いでんだ?」

翔真を馬鹿にしたような口調で煽る門倉に、そんな二人を見て笑う里佳。

翔真は門倉の圧力にビビりながらも「里佳に手出すなよ!」と、声を張って言った。

「何だよ。里佳を寝取られて悔しいのか?お前が情けない男だからだぞ?」

門倉がそう言うと、里佳はクスクスと笑いながら「翔真、童貞だったんだもん。ビックリしちゃった。」と言い、一緒に登校して来た友達も「マジィ?ダサぁ。」と小声で言いながら笑っていた。

すると、突然廊下を通る風の流れと空気が変わり、その場に居た全員が静まり返る。

そうすると、トン、トン、トンと学校指定の上靴で歩く靴音が廊下に響いてきた。

みんながその靴音にハッとして、靴音がする方を振り返る。

「うわっ、、、!」

振り返って、その足音を響かせる人物を見た里佳は、化け物でも見たような驚き様で一緒に居た友達と廊下の隅に避けた。

そして、翔真の真正面にこちらにゆっくりと歩いて来る人物が目に入る。

こちらに向かって歩いて来ているのは、フワッとした長い黒髪を風に靡かせ、紺色のブレザーの中には淡いライラック色のカーディガンを着た風高の3年3組の蘭越椿沙だった。

椿沙はスンとした表情で翔真の横を通り過ぎ、門倉の目の前まで来ると、足を止めた。

「あ?3組の蘭越か?」

ニヤニヤしながらそう言う門倉に、椿沙は「あんた、翔に謝ったの?」と表情一つ変えずに言った。

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