怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「正直に言いますと、腕の痣が原因で他人に避けられたことは、これまで何度もあります。……特に、女性には」

「……!」

「話す中で痣があると先に伝えても、気にしないと言う人が大半です。でも、実際に痣を見た時、気にしないと言える人はほとんどいませんでした」

 優流は「女性」とだけ言ったものの、それが彼に好意を持って近づいてきた女性のことを指すのは、明白だった。

「相手からどんなに気に入られたとしても、痣を見たあとはみんなが離れていく。それを繰り返していくうちに他人と親しくなるのが怖くなっていき、人と距離を置くようになっていったんです。自分の肩書き目当ての見合い話も、全部断りました」

 優流のように優秀で容姿端麗、そして優しい性格の男性のことを、世の女性が放っておくはずがない。

 しかし彼女たちは、おそらく無意識に優流に対して「魅力的で完璧な男性」であるというイメージを押しつけており、痣を見てその理想像が崩れると、離れていってしまったのだろう。

 偽った訳でもないのに本当の自分を見られた途端に、距離を置かれる。これまで優流がどれだけ苦しい思いをしてきたかは、想像にかたくなかった。

「でも、高階さんだけは違いました」

「……!」

「変に特別扱いするでもなく、これまでどおり接してくれた。それが何より嬉しかったんです」

 そう言った優流は、穏やかに微笑んで私を見つめていた。
< 105 / 120 >

この作品をシェア

pagetop