怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 ホテルでのアフタヌーンティーということで、私は華やかなメイクをしていた。

 ファンデーションでツヤのある肌を作り、アイシャドウとチークはパール感のあるものを使った。

 唇には色落ちしにくいリキッドルージュを塗ったので、食事をした際の化粧崩れ対策もバッチリである。

 懇親会の時とはまったく違う私の姿を見て、真子は唖然としていた。

「じゃあ、優流さん。またあとで」

「ああ、終わったら連絡してくれ」

 優流を見送ってから、私は真子に向き直った。

「真子さん、今日はお誘いいただき、ありがとうございます」

「あら、初めまして。貴女も真子さんのお友達?」

 驚きのあまり何も言えない真子に変わって、彼女の友人の一人が声をかけてくれた。

「はい、高階と申します。今日はよろしくお願いします」

「よろしくね。とりあえずもうすぐ予約時間だから、歩きながら話しましょうか。真子さん?」

「え、あっ……そうね」

 こうして私たちは、ホテルの最上階のレストランへと向かう間も、真子は私の頭のてっぺんからつま先までを探るように見ていたが、私が彼女の視線に臆することはなかった。

 優流さんの交際相手として、恥ずかしくないようにしなきゃね。

 ガラス張りのエレベーターから見える景色を眺めながら、私は心の中で呟いた。
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