怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「私、眉毛を描くのが苦手で……いつもアイブロウペンシルを使ってるんですけど、眉尻がどうにもぼやけちゃって」

「でしたら、眉尻だけリキッドライナーで描くのがおすすめですよ。眉毛用のを持ってなければ、アイライナーでも代用できます」

「え、そうなの!?」

 軽く自己紹介したあと、私たちはアフタヌーンティーを楽しみながらお喋りしていた。真子の友人二人は私の化粧を気に入ってくれたようで、会話の話題は化粧に移っていた。

「あずささんのリップ、お食事しても綺麗に色が残ってて羨ましいわ。塗り方のコツとかあるの?」

「塗ってからティッシュオフするのを何度か繰り返すと、色持ちが良くなりますよ」

「そうなの? 知らなかったわ」

 歳が近いこともあり、私は真子の友人たちとすっかり打ち解けていた。真子は相槌を打ちながらも、会話には参加せず紅茶を啜っている。

 いつか真子が怒り出すんじゃないかとヒヤヒヤしていると、彼女はようやく口を開いた。

「その……高階さん?」

「は、はい」

「今日は懇親会の時と違って、とってもお綺麗になさってるけど……どこのヘアメイクサロンに行かれたの?」

 どうやら真子は、私がヘアメイクサロンで化粧を頼んだと思ったらしい。
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