怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「……え?」

「自己紹介が遅くなりました。妹がお世話になっております、兄の御堂優流(すぐる)と申します」

 そう言って、優流はぺこりと頭を下げた。

 彼は整った顔立ちをしており、よく見ると切れ長な目が凛とよく似ている。しかし、背が高く華奢な彼女とは異なり、優流はスーツの上からでも分かるほどがっちりとした身体つきだ。

 それに、笑い慣れた愛らしい口元の凛とは対照的に、彼の口は一文字に閉ざされている。春と冬のように正反対な二人が兄妹など、言われなければ分からないことだ。

「い、いえ……! 私こそ失礼しました。私、高階あずさと申します」

「ひょっとして、二人とも初対面?」

「はい。その……っ、私、御堂さんに助けていただいたんです」

 驚いた様子の凛に、私は先程の一部始終について話し始めた。

「えっと……さっき仕事が終わったんですけど、出待ちしてるお客様がいて……困っていたところで、御堂さんが声をかけてくれたんです」

 一応、木下は店に通う客ではあるので、なるべく言葉を選んで説明する。それに、今は彼を必要以上に悪く言う気にはなれなかったのだ。

 私は木下に待ち伏せされて怖かったけれども、それも冷静に考えると大袈裟に思える。いつも軽くあしらえる客を恐れてパニックになった自分を、私は内心恥ずかしいと感じ始めていた。
< 11 / 120 >

この作品をシェア

pagetop