怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
俯いていると、やけに二人が静かなことに気づく。

「……」

「えっと……?」

 ふと顔を上げると、優流と凛は信じられないほどに顔を顰めていた。その表情は、兄妹とあって驚くほどにそっくりだった。

「え、待ち伏せ? まさか、その客って男?」

「ええ、まあ……」

「ありえない! どうかしてるわ!」

「ああ。てっきり変質者かと思ったら、とんでもない奴だな」

 優流も凛も、木下に対してこれ以上ないほどに不快感を露わにしていた。そんな二人を見て、私は強ばっていた心が自然と解れていくのを感じた。

「気色悪い! そんな迷惑客、出禁にしちゃいなよ」

「っ、ただ、そのお客様がうちの店に通い始めたのは私の責任でもあるので……」

「え?」

 遡ること、三ヶ月前。ある日木下は、コスメカウンターにやって来て、物産展の開催されているフロアはどこかと、店先に立っていた私に声をかけてきた。

 私は口頭で案内して、フロアマップを手渡したのだが、それがまずかった。木下に気に入られてしまい、彼は私を指名して店に通いつめるようになったのだ。

「アパレルフロアで働いてる子に聞いたら……そっちではかなり有名みたいで。前は若い子女の子向けのアパレルブランドに通ってて、トラブルになって出禁になったらしいです」

「……それって、買い物じゃなくて女の子と話すのが目的なんじゃない?」

「そう、でしょうね……」

 とはいえ、本社が出禁にはしないと言っている以上、うちの店は木下の対応をしていかなければならない。ならば、原因を作った私が責任もって担当しようと思っていたのだ。
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