怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「とって食ったりしないから、そんなビクビクしなくて結構よ」

「っ、し、失礼しました……!」

「散々馬鹿にして、悪かったわ」

 そう言って、真子はティーカップをソーサーに置いて俯いた。そのフェイスラインには、化粧で隠しきれない肌荒れが見える。

「御堂さんが貴女を連れているのを見た時、自分は絶対勝てないのだと思って、悔しかった。……私には貴女みたいな、愛嬌のある顔も人あたりの良さもないから」

「……っ」

「こんなんだから、結婚相手も見つからなくて売れ残るのよね」

 真子のことは自信家で気の強い人だと思っていたので、彼女がコンプレックスを抱えているのは意外なことだった。

 正直、人当たりの良さというのは私にはどうにもできないことだ。

 ただ……愛嬌のある顔ならば、いくらでも化粧で作れる。

「真子さん、良かったらなんですけど、一度うちのコスメカウンターに来てみませんか?」

「……は? 何よ、いきなり」

「顔とか雰囲気は、化粧でだいぶ変わると思うんです。ちょうどうちのブランドは、予約制でフルメイクをお試しできるサービスがあるので、良かったら来てください」

 私の中に真子に対する怒りはなく、彼女がどうやったら今より魅力的になれるか、頭の中はそのことで頭がいっぱいだった。

「スキンケアも充実してるので、トータルで色々とご提案できると思います」

「そんなに言うなら……一回ぐらいは行っても良いけど」

「ふふ、ありがとうございます。予約はインターネットのウェブサイトから受付けてるんですけど、今からスマートフォン操作してもらって大丈夫ですか?」

 こうして私は、二人が戻ってくるまで真子の来店予約を手伝っていたのである。
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