怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「ふふっ。全部、自分でやったんです」

 化粧のプロとしては、それはこれ以上ない褒め言葉だ。私は嬉しさのあまり、満面の笑みを浮かべて真子に言った。

「そ、そんな、冗談は結構よ?」

「いえ、実は美容部員という職業柄、化粧は得意なんです」

「まあ、どおりでお綺麗なんだと思った!」

 友人二人は納得したように頷き、真子はぽかんと口を開けた。

「そうだ、せっかくだから連絡先を交換しませんか? 私、あずささんともっとお話ししたいわ」

「え、私も!」

「は、はい……喜んで」

 スマートフォンを操作しながら、二人と連絡先を交換する。自分のことを認められたようで、私は嬉しさで胸がいっぱいになっていた。

「よし、できた。……って、あら? ごめん。着信来てるから、電話してくるわね」

「行ってらっしゃい。私、ちょっと飲み物取ってくるわね」

 二人は次々と、席から離れていった。そうなると残ったのは、私と真子だけである。

 き、気まずい……。

 真子が私のことを面白くないと思っているのは明らかだ。冷や汗をかきながら紅茶を飲んでいると、先に沈黙を破ったのは真子だった。
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