怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 実はこの食事会で、優流は私のことを婚約者として太一たちに紹介する予定なのだ。

 よし。これで素敵な婚約者……に見えるはず。

 化粧直しを終えた自分の顔に魔法をかけるように、私は心の中で呟いた。

「やだ、忘れるところだったわ」

 ウエットティッシュで手を拭いてから、私はバッグにしまっていた婚約指輪を左手の薬指にはめた。

 ダイヤモンド付きのホワイトゴールドの指輪は、指の上でキラキラと輝いている。立派な指輪をプレゼントされるのは人生で始めてのことであり、まだ着け慣れていないのが正直なところだ。しかし、この指輪が似合うような女性に、少しずつなれるよう努力していこうと思う。

 私は優流の偽の交際相手ではなくて、本物の婚約者なのだから。

「じゃあね、お先失礼します。お疲れ様」

「お疲れ様でーす!」

 ロッカールームにいるスタッフたちに挨拶してから、私は早足で百貨店の裏口から外へ出た。

「優流さん、お待たせしました!」

「いえ、お疲れ様です。……おや」

「どうしましたか?」

「いえ、やっぱりその指輪、よく似合ってるなと思っただけです」

 私の左手に目を向けて、優流はそう褒めてくれた。

「あ、ありがとうございます」

 褒められるのは嬉しいものの、まだ指輪に釣り合う女性である自信はないので、少しくすぐったい気分なのが本音だ。そんな私に、優流は穏やかに微笑んでくれた。

「夜道は危ないので、お手をどうぞ」

「……は、はい」

 差し出された手に、私はおずおずと手を重ねた。こうして手を繋ぐのも、まだ練習中なのだ。

「じゃあ、行きましょうか」

 左手の婚約指輪は、さっき見た時よりもより一層輝いて見えた。

 私と優流は手を繋いだまま、待ち合わせ場所であるレストランへと向かった。

 終
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