怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「親にも、あと‘‘ひとまわり小さめ’’に育ってくれても良かったって言われていたぐらいですから」

 そう言った優流は、無表情に近いけれども少しだけ困ったような表情にも見えた。化粧品を扱う仕事をしていると、お客様の外見のコンプレックスや悩みに触れることが多いからか、感情の機微が分かるようになってくるのだ。

「背が高い男の人って、素敵だと思いますけど……っ!?」

 無意識にそんなひと言を口にして、私は慌てて口を閉じた。普段女性客にするのと同じようにフォローしたものの、一歩間違えたら好意があると捉えられかねない微妙な言い回しだと思ったのだ。

「その……変な意味は、なくてですね」

 そう付け足したものの、余計に墓穴を掘った気もする。

 き、気まずい……。

 先程の言葉を最後に、私が駅まで無言を貫いたのは、言うまでもない。

 駅に着いて改札を抜けると、ちょうど電車が来たところだった。

「せっかくなので、これに乗りましょうか」

 優流と共に電車に乗り込み、吊り革に掴まる。静かにしておくべき電車内という空間は、今の自分にとってはありがたい。私は百貨店の最寄り駅に着くまで、仕事のことを考えて気を紛らわしたのだった。
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