怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「本当にお前は……高階さん。妹のワガママに付き合わせてしまって、すみません」

「い、いいえ! 実は私も、傍聴するのは初めてだったんですけど、普段は関わらない世界が知れて、とっても勉強になりました。だから、気にしないでください」

「……だったら良いのですが」

 そこまで話していたところで、凛が私と優流の顔を交互に見比べていることに気がついた。

「よし、私飲み終わったから帰るね」

「え、ちょ……っ、みどりんさん!?」

 慌てる私をよそに、凛は席から立ち上がって帰り支度を始める。いつの間にか、彼女の頼んだアイスコーヒーのグラスは、氷だけとなっていた。

 察するに、凛は最初から私と優流を二人きりにするつもりだったのだろう。

「じゃあね。高階さん、今日はありがとう。お兄ちゃん、お会計よろしくね」

「っ、おい……!」

「ばいばーい」

 優流が何か言うより先に、凛はそそくさと店を出て行ってしまった。

「……」

 凛がいなくなってから、気まずい沈黙が流れる。

「その……私、みどりんさんの分もお支払いしますので」

 優流からすれば、さほど仲良くない女と二人きりにされた挙句、コーヒーを奢らされるという最悪な状況だ。流石の彼も怒るだろうと思い、私は身構えた。

 しかし、優流は軽くため息を吐いただけだった。

「いえ、お代は気にしないでください。とりあえず、冷めないうちにいただきましょうか」

「は、はい」

 彼に言われ、私は白身魚のフライを食べ始めた。
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