怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「っ、別に……高階さんを疑ってる訳ではありませんので」

「え?」

 ぽかんと間抜けな表情となった私と、きまり悪そうな顔をする優流。彼の顔からは、先ほどの鋭利な刃物のような危うい雰囲気は消え去っていた。

「こんな顔なので、無駄に威圧感があるかもしれませんが……怖がらせたい訳ではなくて。ただ、凛が高階さんにまで迷惑をかけてないかだけ心配だったので……」

「はい……」

 私は優流のことを、感情の起伏が少ない人だと思っていたものの、どうやらそれは勘違いだったようだ。

「正直、この顔で損してばかり困ったものです」

「そ、そうなんですか?」

「はい。この前だって、三歳になる親戚の子に大泣きされて……凛とか両親が顔を見せても驚かないのに、俺の姿を見た瞬間、泣きながら走って逃げられました」

 おそらく、幼い彼からすれば、背の高い怪獣に出くわした気分だったのだろう。

 ちびっ子に逃げられて内心落ち込む優流の姿を思い浮かべると、可哀想だが笑えてきてしまった。

「ふっ……っ、ふふふふっ」

「っ、笑いごとじゃありませんよ……っ」

「ごめんなさい……でもっ、ふふふっ」

「……やれやれ」

 笑いのツボにハマって抜け出せないでいると、優流も困ったように微笑んでくれたのだった。
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