怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 不意に、香ばし匂いが鼻を掠める。

 美味しそうな匂いに釣られるように、私は優流の前に置かれたカニクリームコロッケの乗った皿に目を向けた。

 四つあった一口サイズのコロッケは、残り二つとなっており、付け合わせのサラダも半分にまで減っている。

 食べる途中にも関わらず、皿の上はとても綺麗だ。パン粉や千切りキャベツが飛び散っていない皿は、優流の食事マナーの良さを如実に表していた。

 やっぱり……カニクリームコロッケにしておけば良かったわ。

 どうやら優流は、毎回カニクリームコロッケを頼むらしく、今日も迷わず即決していた。

 注文の際、素直に「私もカニクリームコロッケで」と言えば良かったのだけれども、彼を意識してると思われたくなくて、私は白身魚のフライに変えたのだった。

「目は口ほどに物を言う……とはよく言いますが、どうやら本当みたいですね」

「!?」

 顔を上げると、優流は可笑しそうにクスクスと笑っていた。どうやら私は無意識に、黙ってコロッケを凝視していたようだ。

「っ、ご、ごめんなさい……っ、その、やっぱりカニクリームコロッケも美味しそうだなと思って、つい。今度来た時に、頼んでみようと思います!」

 とは言ったものの、口の中は完全にコロッケを欲していた。今の私が欲しているのは、淡白な白身魚のフライではなく、濃厚なクリームコロッケなのだ。
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