怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「うーん……とりあえず、女性二人組のお客様の場合は、付き添いの方を会話に巻き込んで、味方につけることを意識してるかな」

「味方?」

「そう。購入を考えてるお客様から見て、私が商品を買って欲しい立場で、友達がそれを引き止めるって構図になっちゃったら、板挟みになってお客様が辛いじゃない?」

 自分が弁護士、お連れ様が検事、購入ご検討のお客様が裁判官の立場に立って、法廷で商品購入の是非を争う……というイメージ図が瞬時に頭の中に浮かんだのは、傍聴に行った影響だろう。

「まあ、たしかにね」

「それに、コスメに興味ないお連れ様だと、『早く切り上げたい』と思われたら最後。だから最初は、商品より先にお客様とお連れ様、両方と距離を詰めてくかな」

「両方と? そんなことできるの?」

「ええ。例えば、『今日はお二人でお出かけですか?』とか二人に向けて、会話を始めていくの。お連れ様側からすれば、友達と店員が話してる間は蚊帳の外だなんて、正直つまらないでしょう?」

 化粧品に興味がなくとも、会話が楽しければ敵にはならない。それどころか、購入を後押しする味方になってくれる場合もあるのだ。

「お疲れ様の『保留にしたら?』を『買っちゃいなよ!』に変えるには、今のところはそれが一番効果的かな。最終的には、人と人だから」

「むむ……そういう方法があったか」

 私が言ったことを手帳にメモしながら、浜本チーフは眉間に皺を寄せた。
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