怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「えっと……御堂さん?」

 涼太と別れたあと、私は優流に問いかけた。イライラしているなら話しかけないほうが良いかとも考えたが、どうしても放っておけなかったのだ。

「どうしました?」

「……!?」

 殺気立った雰囲気はどこへやら。優流は口元に笑みを浮かべて、こちらに顔を向けた。

 腰に添えられた手は離れていたけれども、エスコートされていた名残りで二人の身体的な距離は、いつもより近くなっている。それもあり、私の心臓は早鐘を打っていた。

「いえ……その、お仕事、忙しかったですか?」

「いえ、今日は何のトラブルもなかったので、すんなり終われました」

「そ、そうだったんですね」

 先ほど見た険しい表情は一体何だったのかと内心戸惑っていると、優流もまた私に問いかけた。

「高階さんも、変な客に捕まりませんでしたか?」

「は、はい。今日は平日でお客様も少ないですし、とっても平和に過ごせました」

「そうでしたか、だったら良かった」

 ……もしかして。御堂さんがさっき月島君に嫌な顔をしたのは、警戒していたから?

 そう思った瞬間、私はようやく納得がいった。

 涼太が勤めるコスメブランドは、いわゆるモード系のブランドであり、制服は上下黒で統一されている。そのコスチュームで黒髪だと威圧感が強くなってしまうので、涼太はあえて明るい茶色に髪を染めているのだ。

 いわゆるお堅い仕事に就いている優流からすれば、涼太のことが「軟派な危ない男」に見えてもおかしくはない。
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