怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「御堂さん。私の傘で良ければ、使いませんか?」

「良いんですか?」

「はい、風邪をひいたら大変ですし、長い傘なら家に一本ありますので……っ!?」

 何気なく優流の手元を見て、私はつい息を呑んだ。

 優流の濡れた長袖の白いカッターシャツは、彼の腕にぴったり貼りついている。

 そこには肌とは異なる赤紫色が、広い範囲で透けて見えたのだった。

「っ、御堂さん、もしかして怪我して……」

「っ!?」

 無意識に優流の腕に手を伸ばすと、彼はサッと手を引っ込めてしまった。

「あっ、ごめんなさい……」

 自分が余計なことをしたことに気づき、私は慌てて謝った。

「っ、いいえ。気にしないでください。……これは、怪我ではありませんので」
 
「……?」

「傘は大丈夫です。それでは、失礼します」

「え、あっ、待って……!」

 私が引き止めるのも聞かず、優流は大雨の中へと駆け出して行った。

 彼の姿が見えなくなってから、ようやく我に返り、私はマンションのエレベーターに乗った。

 御堂さんのさっきの腕、怪我ではないと言ってたけど……何なのかしら?

 日傘を分け合ったり、スイーツの話をしたりして、優流とのココロの距離は確実に縮まっていた。

 けれども、自分がいらぬことをしたせいで、それも水の泡だ。

 近くに感じていた優流のことが、再びはるか遠くに思えてしまったのだった。
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