怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「つ、疲れた……」

 終業後、私は従業員用のエレベーターの中で大きく伸びをしていた。今日はポイントキャンペーン期間で忙しいので、早番から遅番まで通しでの勤務だったのだ。

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です」

 警備室にいる警備員さんに軽く挨拶してから、私は裏口の扉に手をかける。疲れきっているため、重いドアを開けるのすら一苦労だ。

 外に出ると、平日の夜八時過ぎともあって人通りはまばらだった。私はスマホの画面を開き、時刻を確認する。

 ……よし、今から早歩きで行けば、十分発の電車に乗れそうね。

 そう思って歩いていたところ、視界の端に一人の人影が見えた。

「高階さん、今仕事帰り?」

「!?」

 私の目の前には、なぜか木下が立っていた。どうやら彼は、私を待ち伏せしていたらしい。
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