怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 凛があれこれ指示を出して、優流がそれを聞きながらせっせと何枚も写真を撮る光景は、安易に想像ができる。私はつい、我慢できず笑ってしまった。

「コツとかがあれば、教えてくれませんか?」

「そうですね、ケーキとからなるべくズームして撮るとそれっぽくなります。あと、美味しそうに撮影できる専用のアプリがあって……」

「え、そんなのがあるんですか?」

 優流はスマートフォンの画面のカメラアプリを起動して、写真の撮り方を分かりやすく教えてくれる。画面を覗き込むことで自然と距離が近くなることにドキドキしながらも、私は優流の説明に聞き入っていた。

 優流に教わったとおりにもう一度写真を撮ってみると、先ほどよりも格段に良い出来になっていた。

「わ、すごい……ありがとうございます」

「良かった。じゃあ、食べましょうか」

 写真を撮り終えた私たちは、撮影しやすいようにテーブルの上に置いたケーキやティーカップを移動させた。

「御堂さん、良ければケーキをひと口交換しませんか?」

「ええ、もちろんです」

 お互いにケーキをフォークでひと口ずつ取り合い、ぱくりと頬張る。

 ショートケーキの生クリームは甘さ控えめで、イチゴの甘さを引き立てている。それでもイチゴ以外の甘さを口の中で感じるのは、ケーキが理由ではないだろう。

 きっと、優流と過ごすひと時が、ケーキを一層甘く、美味しくしているに違いない。
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