怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「そう言えば、御堂さんはどうして裁判官を目指そうと思ったんですか?」

 ケーキを半分ほど食べたタイミングで、私たち以外の客がいなくなったため、私はそれとなく優流に尋ねた。

「司法試験に合格したら、弁護士や検察官にもなれるって聞いたので、ちょっと不思議で……」

「たしかに、気になりますよね」

 プライベートなことを聞きすぎたかと思ったが、優流は紅茶をひと口飲んでからティーカップを置いて話し出した。

「端的に言うと、公平な判断をしたいと思ったから……ですかね」

「公平な判断?」

「はい、もっと言えば、不平等な判断を下される瞬間を目の当たりにして、ショックを受けて、そう思った……と言いますか」

 ティーカップの中を覗き込む優流は、どこか遠い目をしていた。

「さっきお見せしたとおり、腕の痣はかなり広範囲にあるもので、とても目立ちます。子どもの頃にいじめられはしなかったものの、同級生から悪い意味で気を遣われて過ごしていました。きっと大人たちが、必要以上に『優流の痣のことは話題にしたら駄目』と言っていたのでしょう」

 たしかに、目立つ特長があるならば、いじめに繋がってしまう可能性もある。保護者や教師たちは、それを事前に防ぎたかったのだろう。

 しかし過度な気遣いは、優流と他の子たちの間に壁を作ってしまったようだ。

「小学生の時、クラスであだ名を付けるのが流行った時も、自分にはみんな遠慮してあだ名を付けませんでした。気遣いなのかもしれませんが、それが寂しくもありました。でも一人だけ、例外がいたんです」

「例外、ですか?」
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