怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「はい。小学五年生の時に同じクラスになった太一って奴なんですけど、初めて顔を合わせた時、『その痣、ヤクザの刺青みたいでカッコイイな!』って言ってきたんですよ」

「あらまあ」

 当時のことを思い出したようで、優流はおかしそうに笑う。そんな彼を見て、私もつられて笑ってしまった。

「当然、担任の教師は太一をめちゃくちゃ叱りました。けれども、俺は腫れ物扱いされなかったのが嬉しかったんです」

 それをきっかけに、優流は太一と仲良くなっていったという。

「太一は言ってしまえば、やんちゃ過ぎるタイプで、思ったことはハッキリ言う素直な奴でした。……まあ、教師からは問題児扱いされていましたけど」

「ふふっ、そういう子ってクラスに一人ぐらいいますよね」

「ええ。でも、太一は人の悪口を言ったり弱いものいじめはしないので、同級生からは慕われてました。大人と子どもで太一への評価は大きく違いましたけど、本人がそれを気にしてないので、俺もその状況を放置してました。そんなある日、事件が起こったんです」

 そこで優流の思い出話をするような穏やかな口調が、一気に厳しいものに変わった。

「教室に置いてあった花瓶を、休み時間の間に誰かが割ってしまったんです。当然、誰が割ったのか、帰りのホームルームで犯人探しが始まりました。そして教師は、真っ先に太一を疑ったんです。何も証拠がないのに」

「……っ」

 テーブルの上で握られた拳には、優流の悔しさが滲んでいた。
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