怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「とりあえず、今日中に新しい鍵に取り替えできるみたいです」

　そう言って、マンションの管理人である弓削さんは応接セットの一人がけソファに腰掛けた。弓削さんはマンションの近所に住んでいることもあり、連絡したところすぐに対応してくれたのだった。

「ご迷惑おかけして、申し訳ございません」

「いえ、こんなことが起こるのは初めてですが……どうかお気になさらないでください」

　ソファに座ったまま深く頭を下げると、弓削さんは気遣わしげにそう言ってくれた。

「一応調べてみましたが、このあたりで不審者情報も特に出てないみたいですね」

　スマートフォンの画面を閉じてから、優流は言った。連絡してすぐに、彼は私の元に駆けつけてくれた。そして付き添いとして、私と共に弓削さんの家に来たのである。

「この辺りは都心から少し離れているので、私もそう言った物騒な話は、ここ最近聞いてませんが……取り急ぎ、防犯カメラのチェックも管理会社のほうに依頼しましょう。今日は日曜日なので、明日以降になってしまいますが……なるべく早くするようお願いしてみます」

「ありがとうございます」

「高階さん、大分顔色が悪いみたいですが……大丈夫ですか？」

「は、はい」

　口ではそう言ったものの、心臓は恐怖のあまりバクバクとうるさく音を立てていた。

　今の時点で犯人が木下だとは断定できないものの、鍵にいたずらを仕掛けた人間に自宅を知られていると考えただけで、身体の震えが止まらない。室内は快適な温度だというのに、背中には嫌な汗が流れていた。
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