怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
 bono・bonaでカニクリームコロッケを頼んだ時に付いてくるプラスチック製のピック。おそらく優流は、持ち帰って来たのだろう。

「っ、ふふっ……!」

「高階さん!?」

 私は吹き出して、その場にへたり込む。急に大笑いしたせいで、力が入らなくなってしまったのだ。

「っ、ごめんなさい……っ、その、鉢にカニのピックが刺さってるのが、なんか可愛くて……!」

 可愛らしいピックを優流がいそいそと持ち帰る様子を想像するだけで、笑えてきて仕方がない。彼には申し訳ないが、笑いのツボにはまってすっかり抜け出せなくなっていた。

「っ、一本ぐらい持ち帰りたいと思うでしょう、あれは」

「そ、それは分かりますけれど……っ、ふふっ」

 優流に助けられながら立ち上がり、ようやく笑いの波が落ち着き始める。大笑いしたせいで、先程まで感じていた不安と恐怖はどこかに行ってしまっていた。

「……とりあえず、元気みたいで良かった」

「え?」

 顔を上げると、優流は表情を緩めてわたしを見つめていた。不意に目が合い、どきりと心臓が跳ねる。

「とりあえず、何かあったらすぐ相談してください」

「……っ、はい、ありがとうございます」

 優流にそう言われ、私は頷いたのだった。
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