怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「高階さん、どうしました?」

「え、あっ……」

 リビングに行くと、優流が大きなダンボール箱を抱えて立っていた。どうやら、宅急便の荷物を受け取ったらしい。

「そんなに慌てて、何かありましたか?」

「い、いえ……何でもないです」

 木下がこの家たと勘違いして飛び起きたなんて、恥ずかしくて言えない。とはいえ、優流は明らかに眉をひそめていた。

「もしかして、体調が悪いとか?」

「えっ、あ……」

 ダンボールをテーブルに置いてから、優流は私の額に手を当てた。当然熱はないけれども、顔が別の意味で熱くなっていく。

「熱はなさそうですが……念のため、体温計を使いますか?」

「だ、大丈夫ですから……!」

「本当に?」

「はい、なんと言うか……寝ぼけていただけですので」

 恐怖心を押しとどめるように、私は首を横に振る。優流にこれ以上、迷惑を掛けたくないのだ。

 不意にテーブルに目を向けると、机上には手のひらサイズの小さな鉢が置かれていた。

 鉢に植えてあるのは、肉厚な丸い葉っぱの植物。そして土に刺さっているのは……。

 見覚えのある、小さなカニのピックだった。
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