怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「お疲れ様です」

「高階さん、お休み中に呼び出してごめんなさいね」

「いえ、とんでもないです」

　掃除と洗濯を終えたタイミングで、大城店長から電話が来た。それから大事な話があるとのことで、私はウェブ会議に呼び出されたのである。

　ウェブ会議に参加しているのは、私と店長、そして百貨店のお客様相談室で相談員を務めている佐々木さんの三人。

　お客様相談室とは、百貨店に寄せられたクレームに対応する専門部署で、いわゆるお客様対応の最後の砦である。佐々木さんがいるのを見た瞬間、私は木下に関することで呼び出されたのだと察した。

　私がウェブ上の会議室に入室したところで、店長は話を切り出した。

「高階さん、申し訳ないけれども……貴女には来月から別店舗に異動してもらいます」

「え？」

「これ以降の説明は、私のほうからさせていただきます。木下様への対応方法について、本社とも協議したのですが……申し訳ございません」

　店長に代わって、佐々木さんは説明を始めた。

　私が休みの間に、百貨店内で木下を出入り禁止にできないか話し合いが行われたらしい。しかし木下については、出入り禁止にする要件を満たさないという判断になったというのだ。

「悪質なセクハラ行為、暴力行為をした場合、あるいは警察沙汰に発展した場合は、即座に出入り禁止にすることができます。しかし木下様の行動に関しては、今のところそれには該当しないと、判断されてしまったのです」

「……はい」

　眉をしかめながら、佐々木さんは申し訳なさそうに話を続ける。
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