月とスッポン      ありのままは難しい

霊鐘堂の近くに立つ重厚な建物に近づいていく。案内板には【一切経蔵】と書かれている。


「ここは一切経を収める書庫ですね。
《【一切経】は、5048巻にものぼる仏典類を網羅したとても長い経典です。
内部を鏡天井とし、軒の棰の間隔を広くとった疎棰、花頭窓、欄間には波形格子をたてるなど典型的な禅宗様の経堂で、もとは山口の大内氏第26代当主・大内盛見の菩提寺であった国清寺 現在の洞春寺にあったものを、 1602年 慶長7年に毛利輝元によって移築された建物です》」

半分以上何を言っているかわからなかったけれど、それはいつもの事なので聞き流す。

「重要な本の為の八角輪蔵は流石の細やかさですね。一周回る読んだと同じご利益があるそうです。行きましょう」

今度は私が大河の手を引いて中に入っていく。

これぐらいの薄暗さなら平気だけど、いつも躊躇して踏み込めなかった輪蔵を間近で見れるチャンスを逃したくないだけだ。

なんて自分に言い訳する。

いつも遠目で見ていたものが目の前にある。ほんの数メールの差なのに、間近で見上げると今まで見てきた物とは別なものに見える。

ゆっくりと歩き、たまに立ち止まる。私のペースに大河が一緒に歩いてくれている。
何も言わずにただ私の横を歩いている。気配がする。
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