月とスッポン      ありのままは難しい
「《被害者である比叡山延暦寺からすれば、信長に大量虐殺されたと噂が広がれば、人々の同情を集めることができます。
長い年月をかけ、積み重なった悪評を一色するチャンスだという事です》」
「確かに」

「《それに加害者の織田信長からすれば「信長は残酷で、女子供をも殺す奴だ」と噂されることで、敵が恐れをなして戦わずに降伏してくることでしょう。
無闇な争いを避ける事で、新たな犠牲者もかかる費用も抑える事が出来ます。

つまり、被害者も加害者も、ともに犠牲者や被害を大げさに言ったほうがお得ということです。
それ考えれば、実際の被害よりも、大げさに噂が広まってしまうのも納得出来ます》」

「なるほど」
「《比叡山延暦寺は、その後も再興のための活動を続けたものの、それまでの腐敗ぶりが仇となったのか、活動は難航した事でしょう。
 僧兵をおかないことを条件に豊臣秀吉は比叡山の再興を決定し、ようやく比叡山延暦寺が再興されて、現代に至るまで本来の比叡山の姿、仏教の聖地として、僧侶たちの修業の場を保ち続けているのです》」

「500年以上腐敗し、正常になって450年」
「そうなりますね。《最澄は、僧侶としての役割を放棄していた奈良を嫌になり、ここ比叡山で修行を始めたにも関わらず、自分が嫌っていた僧侶に自分の弟子達がなってしまった事に心が痛かったに違いありません》」

「なら、今はホッとしますね」
「だといいですね」

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